イースター島の文明崩壊~なぜ人類は破滅へと突き進むのか?~


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彼女と最後に会ったのは2年前だった。

 

明るくて、知的で、人に気遣いができる優しい女性だった。

僕は彼女のことを、彼女がまだ14才だった頃から知っている。

僕にとって彼女は本当の妹のような存在だった。

だから、彼女のことはよくわかっていると思ってた…。

 

2年ぶりの再会。

でも、今僕の目の前にいる彼女は、僕の知っている彼女じゃない。

 

・・・彼女はいったい、誰だ?

イースター島の文明崩壊~なぜ人類は破滅へと突き進むのか?~

イースター島の悲しい歴史

数日前、ミアから"妹の様子が変だから会ってほしい"と頼まれた。

なんで僕が嫁の妹と2人で会うという展開になるのだろうか?

三流小説でもあるまいし...。

でも、ありそうにないことが実際に起こるのが現実だ…。

 

僕:「久しぶりだね。レイちゃん。」

レイ:「ミクサ…

ずいぶんと雰囲気が変わったようだけど、何かあったのか?」

 

それはこっちのセリフだよ!!

 

レイちゃんはミアの妹で、三姉妹の末っ子だ。

年は僕の方が上だけど、雰囲気はレイちゃんの方が年上だ。

精神年齢は何歳くらいだろう?

いや...精神年齢がどうとかいうより、これは...

 

僕:「こっちも、いろいろあってね。

ところで、レイちゃんは今なにしてるの?

頭いいし、研究職とか?」

 

レイ:「なにも。」

 

僕:「へっ?でも、ここの家賃…」

レイ:「お金には困ってない。」

 

僕の言葉を遮るようにレイちゃんは言葉を重ねてきた。

どうやら、人の心を読む能力は今も健在のようだ。

 

僕:「・・・」

レイ:「・・・」

 

沈黙…。

困ったな…何を話せばいいのだろう…。

僕が必死に考えていると、レイちゃんが先に口を開いた。

 

レイ:「イースター島…」

 

…はい!?

僕:「"イースター島"って、あのモアイ像のある島のことかな?」

 

レイ:「他に"イースター島"があったんだ?知らなかったな。」

 

うっ…下手な事は言えないな…。

僕:「"イースター島"がどうかしたのかな?」

 

レイ:「ミクサ…

君は、イースター島の悲しい歴史を知っているかな?」

モアイ像の呪い

レイ:「君は、イースター島の悲しい歴史を知っているかな?」

 

僕:「恥ずかしながら、イースター島についてはモアイ像があることくらいしかわからない…。

『イースター島の悲しい歴史』それって、やっぱりモアイ像が関係してるのかな?」

 

レイ:「イースター島…広大な太平洋に孤立して浮かぶこの島は、最も近い陸地であるピトケアン諸島からでも2100キロも離れた場所に位置している。

孤島という閉じられた環境のおかげで、イースター島は、18世紀にヨーロッパ人たちが訪れるまでは、敵国に攻め入られる心配は皆無だった。

さらに、亜熱帯地域にあるこの島は、穏やかな気候と、火山の噴火に由来する肥沃な土壌に恵まれた、まさに理想郷と呼ぶにふさわしい島だった。」

 

僕:「それだけ好条件が揃っていると、島民たちはきっと、幸せな人生を謳歌したんだろうね。

イースター島の文明が崩壊したのは、ヨーロッパ人の襲来が原因なのかな?」

 

レイ:「いや、ヨーロッパ人はこの島の文明にとどめを刺しただけだ。

文明の崩壊は、島民たちの愚かな行為が招いたものだった。」

 

僕:「愚かな行為?」

 

レイ:「イースター島は12の領地に分かれていて、それぞれが漁業や農業、採石、木材加工といった得意分野を発展させていた。

自分たちの不得意分野を他の領地に補ってもらう…この社会システムは現代社会にも通じるものだが、このシステムが競合していたそれぞれの領地をうまく統合させていた。

ある日、12の領地の首長が集まる集会で、こんな話しが持ち出された。

『この中で、一番権力を持っているのは誰か?』

 

 

僕:「あ~…一番やっちゃいけない議論を始めたわけだね。

少しだけ先が読めたよ!それでモアイ像が生まれたんだね。」

 

レイ:「そう。首長たちの話し合いの末『最も大きなモアイ像を立てた者を最高権力者とする』というルールが取り決められた。

首長たちは自分の領地の島民たちに、他の首長よりも立派なモアイ像を造り続けるよう命じた。

そうして、数百体ものモアイ像が島のあちこちに設置されることになる。

やがて、モアイ像の大きさ追究が限界に達すると、今度はモアイ像の頭の上にプカオと呼ばれる帽子を被せ、プカオの大きさで競い合うようになる。

 

僕:「まるで金持ちが不必要に大きな豪邸を建てるのと同じだね。

敷地内に飾られている高級車はプカオの代わりかな?」

 

レイ:「...モアイ像は木で作られたレール上を滑らせるようにして運搬された。

モアイ像を寝かせて橇(ソリ)に載せ、大勢の人が一斉にロープで引っ張る。

モアイ像の大きさ競争も後半戦に突入すると、モアイ像を牽引するのに、500人もの島民が力を合わせなければ動かせないほど重たくなった

当時の島人口は最も有力な説で15000人と推定されているから…約半数の島民が何らかの形でモアイ像に関わっていたことになる。」

 

僕:「頭の悪い権力者のおかげで、島民たちはひたすらモアイ像を造らされ続けたというわけか…確かに、これは悲劇だね。」

そして、文明は崩壊した。

僕:「でも、首長たちはモアイ像造りに励んだだけで、武力で争うようなことにはなってない。

幸か不幸かはさておき、島内は統制されて平和だった…

それなら、なぜイースター島の文明は崩壊したんだい?」

 

レイ:「モアイ像の運搬には、"木製"の橇と、"木製"のレールが必要だった。

それに…木が生い茂る森の中を運搬するのは、あまりにも非効率ではないだろうか?」

 

この言葉で、僕の頭の中でバラバラに点在してた事柄が一本の線で繋がった。

僕:「…まさか!」

 

レイ:「そう。島民たちはモアイ像を運搬するために大量の森林を伐採した。

森林破壊はやがて、大規模な土壌侵食を招き、作物生産量は急減した。

元々この島には25種の海鳥が棲息していたとされているが、島民たちの貴重な食糧源であったこれら鳥も姿を消した。

漁に使う木製のカヌーが作れなくなったため、島民たちは漁に出ることもできなくなった。

野菜も、肉も、魚も…食べるものの多くを失った島民たちは、ネズミやトカゲを食料の代替えとすることで飢えを凌いだ。

でも、それも長くは続かなかった...

追い詰められた島民たちは、最終手段として、それまで利用してこなかった『身近にある最大の食糧源』に目を向けた。」

 

僕:「…人間だね?」

 

レイ:「そうだ。

島民たちは人肉を求めて争った。

この内乱で島民の80%が命を落とした。

ヨーロッパ人がやって来たのはその後のことだった。

ヨーロッパ人は弱り切った島民の半数に当たる1500人を、奴隷として働かせるために拉致した。

更に、彼らはこの島に天然痘を持ち込んだ。

島民たちはこの未知の病原菌になす術もなく、感染はあっという間に拡大した。

人口は更に激減し、1872年に確認された生存者は、たったの111人だけだった。

こうして、イースター島の文明は完全に崩壊し、その後はチリ領となり現在に至る。」

 

もし、満足できていたなら…

僕:「首長たちによる『より大きく』『より美しい』モアイ像が欲しいという欲望が、理想郷だったはずの孤島を地獄へと変貌させてしまったんだね。」

 

レイ:「もし、首長たちが『そこそこのモアイ像』に…『そこそこの生活水準』に…満足することができていたら、イースター島の辿る運命はきっと、今とは違ったものになっていただろう。」

 

僕:「"過度な欲望の追求が、自らの身を滅ぼした"か…

イースター島の歴史から得られる教訓はたくさんあるね。

僕たちは、今よりも豊かになるために働いている。

でも…本当に僕たちは、昔よりも豊かになれているのかな…?

 

ゴーン...ゴーン...

部屋に掛けられている古風な時計が、正午を知らせる鐘を鳴らした。

 

僕:「あっ…話し込んでいたら、もうお昼だね。

これからミアとランチなんだけど、一緒にどうかな?」

 

レイ:「遠慮しておく…一人がいいから。」

 

僕:「そっか…じゃぁ、そろそろ帰るよ。」

そう言って部屋を出ようとした時、僕の頭に一つの疑問が浮かんだ…

 

僕:「ねぇレイちゃん、最後の木を切り倒したイースター島民は、その木を切りながら何を思ったのかな?」

 

レイ:「さぁな。今となってはわからない。

『仕事だから仕方がない』と開き直ったのかもしれないし、

『代替えとなる資源がきっと見つかるさ!』と、自分に言い聞かせたのかもしれない。

『テクノロジーの進化が問題を解決してくれるから心配ない』と楽観していたのかもしれないな。」

 

僕:「そっか...今も昔も、人間の本質は変わらないのかもしれないね。

今日は楽しかったよ。ありがとう。」

 

レイ:「…また来るといい。

次はもっと面白い話をしてあげるよ。」

 

僕:「フフ、それは楽しみだ!

また来るよ。」

 

※元々この記事の構成は、ここから資産運用報告に移っていたのですが、当記事の内容とはほとんど関係がなかったため、R5.4.4、この部分を削除しました。

参考書籍

文明崩壊 上巻

文明崩壊 下巻

www.mixa.biz

www.mixa.biz

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