それでもあなたは"ポジティブ"になりたいですか?


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それでもあなたは"ポジティブ"になりたいですか?

当記事の目的

人生で必要なのは無知と自信だけだ。これだけで成功は間違いない。

【マーク・トウェイン(著作家)】

 

私たちは日々、不安や後悔、人間関係といったもので悩み、心を病んでしまいます。

 

一方で、私たちの周りには、人生の悩みを見事に克服した(と思い込んでいる)人たちで溢れています。

 

過去の過ちを悔やんでいることを熱心な宗教信者に相談すると、

「信仰すれば楽になる」と言われ、夜に開かれる怪しげな集会に参加させられることでしょう。

 

人間関係に疲れたことを精神科医に相談すると、

「これを飲めば楽になる」と言われ、最近開発されたばかりの怪しげな薬を処方されることでしょう。

 

将来の不安について職場の上司に相談すると、

「一生懸命に働いて、そして飲め!」と言われ、仕事帰りに怪しげなお店に連れて行かれることでしょう。

 

何もかもが嫌になったことを脳科学者に相談すると、

「これを被れば気分が良くなる」と言われ、巨大で如何にも怪しげなヘルメットを被せられることでしょう。

 

私たちは『ネガティブな性格』は悪いことだと思い込み、『ポジティブな性格』になろうと努力します。

 

そして次の日には、何の役にも立たない自己啓発本を何冊も買ってきて、お金と時間を浪費してしまうのです。

 

当記事は、

「ポジティブな性格にならなければいけない」という馬鹿げた考えから脱却することを目的としています。

 

自分のネガティブな性格に悩んでいる方の気持ちが、少しでも楽になれば幸いです。

それでは参りましょう。

脳を進化させれば、ポジティブな人間になれる!?

まず、人間の脳の進化について、衝撃的な実験を紹介します。

 

機能的磁気共鳴画像法(fMRI)の登場以降、脳科学の研究は飛躍的に進歩し、私たちの脳について多くのことが解明されるようになりました。

 

fMRIは、巨大な磁石のようなもので、これを使えば脳をめぐる血流を視覚化することができます。

つまり、人が何かに反応したときに、脳のどの部分が活性化しているのかを一目で知ることができるのです。

 

神経科学者のアルバロ・パスクアル=レオーネは、被験者に5日間目隠しをして過ごさせるという実験を行いました。

この5日間、被験者はできる限り普段通りの生活をするように指示され、その間の被験者の脳の変化を、fMRIを用いて観察したのです。

 

脳にある視覚野は普通、音楽を聴いたり、何かに触れたりしたときに活性化することはありません。

被験者の脳も同じで、実験開始前はそういったことをしても、視覚野が活性化することはありませんでした。

 

しかし5日後、事態は変わっていました。

被験者が二つの音を聞き分けようとしたり、何かに触れたりしたとき、被験者の視覚野にすぐに反応が現われたのです。

 

たった5日間の目隠し生活で、被験者の脳は、環境の変化に適応できるよう進化し始めていたのでした。

 

この発見は、「生物の進化は何世紀もかけてゆっくりと進行する」というダーウィンの進化論を覆すものでした。

 

この実験に刺激を受けた神経科学者のエレーヌ・フォックスは、脳を進化させることでポジティブな人格を作る研究に着手します。

 

彼女は、ポジティブな人の脳は、側坐核と前頭前野の回路が発達しており、逆にネガティブな人の脳は、扁桃体と前頭前野の回路が発達していることを突き止め、

前者をサニーブレイン、後者をレイニーブレインと呼びました。

 

 

私たちは、側坐核と前頭前野を結ぶ回路を強化することでポジティブな人間になることができるのです。

 

では、サニーブレインの作り方を見てみましょう。

サニーブレインの作り方

極端なほど手ごわいものがある。それは鋼とダイヤモンドと、自分を知ることである。

【ベンジャミン・フランクリン(アメリカ建国の父)】

 

サニーブレインは、ポジティブな人の傾向を真似し続けることで形成されます。

 

『人間の注意には偏りがあるのか?』

これを調べるため、認知心理学者たちは

注意プローブ課題と呼ばれる実験を開発しました。

 

この実験では、実験参加者たちは、モニターのついた小型のコンピュータを手に、モニターに集中するよう指示されます。

 

すると、モニターに蛇やクモのような『ネガティブな画像』と、小型犬やソフトクリームのような『ポジティブな画像』の、2つの画像が映し出されます。

 

0.5~1秒後に写真は消え、画面の左右どちらかに小さな三角形(プローブ)が現われます。

被験者は、プローブを見つけたら手元のボタンを可能な限り素早く押さなければなりません。

 

 

被験者の注意を引く画像があったのであれば、その画像のあったところにプローブが表示された際に、被験者は素早く反応するはずです。

 

この実験を、自分のことをポジティブだと主張する人と、ネガティブだと主張する人とにグループ分けして行いました。

 

結果、ネガティブな人は危険や不安を掻き立てる画像のあった位置にプローブが表示されたときに素早く反応し、逆にポジティブな人は楽しそうな画像が表示されたときに素早く反応する傾向があることがわかったのです。

 

この実験のような『人の注意に関する実験』を様々な形で繰り返し調べていくうちに、心理学者たちは、ポジティブな人に共通する興味深い事実を突き止めます。

 

不安症でない人にはネガティブな情報を避ける方向に強い偏りがあることが研究を進めるうちにわかってきた。嫌な感じの画像や言葉が画面に浮かぶと、彼らはすぐにそこから注意を逸らしてしまう。…けれど、被験者はだれひとり、自分のそうしたバイアスに気づいていなかった。

【エレーヌ・フォックス(神経科学者:著書『脳科学は人格を変えられるか?』より)】

 

ポジティブな人格を作る最大のポイントは、自分にとって都合の悪い情報をとことん避けることだったのです。

 

しかし、この『臭い物に蓋をする』的な戦略では、すべてのネガティブな情報を遮断することは不可能でしょう。

 

そこで重要となるのが、心理学者のバーバラ・フレドリクソンが発見した

『ネガティブ1:ポジティブ3』という黄金比です。

 

ネガティブな出来事が及ぼす心的ダメージは、ポジティブな出来事から得られる幸福感の2倍に匹敵する…

つまり、ポジティブな人格を作るには、悲しいことや辛いことを一つ経験する度に、快楽を3つ消費する必要があるのです。

 

嫌なことの3倍、楽しいことをやって気を紛らわせ続ける…

確かに、これで私たちはポジティブになれるのかもしれません。

でも、そうやって作り出された

『ポジティブな私』は、本当に『私』なのでしょうか?

より悲しいが、より賢い。

たぶん、いくらか憂うつだけどその分だけ賢い、という人の方がいいのだろう。これはただの軽口ではない。抑うつ傾向を持つ人のほうが、リスクを前にしたときの『測定』がうまく、平均より慎重な予測をたてるのだ。

【マッテオ・モッテルリーニ(経済学者:著書『経済は感情で動く』より)】

 

ここまで、ポジティブな人格のいいイメージを崩してきました。

ここからは、ネガティブな人格の悪いイメージを崩していきます。

 

心理学者のローレン・アロイとリン・アブラムソンは、「好きなタイミングで何度でもボタンを押していい」と伝え、実験参加者にスイッチを手渡しました。

被験者の前には白熱電球が用意されており、この電球は点灯・点滅を不規則に繰り返し続けます。

 

この実験では、自分のことを楽観的だと答えた人は、電球が点いたり消えたりしているのを、自分がボタンを押したことが影響を与えていると確信していたのです。

 

しかし、手渡されたスイッチは、実際には電球に対してなんの影響も与えておらず、自分を悲観的だと答えた人は正確にこれを見定めていたのです。

 

悲観的な人が楽観的な人よりもいくらか正確な判断を下すこの現象

抑うつリアリズムと呼ばれています。

 

ではなぜ、悲観的な人は状況の分析に長けているのでしょうか?

それには、悲観的な人が悲観的にならざるを得なかったこれまでの経験が深く関わっているようです。

ネガティブを誇れ!

自分の欲求を我慢しなければならないような体験を重ねることなどで、前頭連合野は年齢相応に成長していく。前頭連合野は『人間らしさ』の一端を担う領域だが、放っておいて自然に発達するわけではない。

【中村克樹(脳科学者:著書『脳のしくみ』より)】

 

当然ですが、ネガティブな人は最初からネガティブだったわけではありません。

 

思い通りにならないことをたくさん我慢して、更には、そのことで自分を非難し続けてきた結果、ネガティブな人格が形成されたのです。

 

それら経験は、人間らしい理性や高度な思考、自己コントロールなどを司る

前頭連合野を成長させます。

 

 

だから、たくさんのことを我慢してきたネガティブな人は、自分の考えを周りに押し付け、嫌なことから目を逸らし、快楽に逃げ続けてきた人たちよりも正確な状況判断ができるようになったのでしょう。

 

しかし、後者が主導するこの社会では、ネガティブな人間は害のある存在として扱われます。

 

これにより、私たちは更に自分を責め、心を病むまで追い込んでしまうのです。

 

自分が不幸な場合に、そのことの原因となった他人を非難することは、無教養な者のすることである。自分自身を非難するのは教養の初心者のすることである。他人をも自分をも非難しないのが教養のできた者のすることである。

【エピクテトス(古代ギリシアの哲学者)】

 

思い通りにならないことを我慢し、目の前の問題と対峙し、解決できない自分の裁量を非難する…

これのどこがいけないことなのでしょうか?

 

ネガティブな人は都合の悪い事実から目を逸らさずに向き合うことができています。

その勇気と知性を誇り、歓喜の声をあげてもいいくらいではないでしょうか?

 

古代ギリシアの哲学者たちは、自分自身を責めるものを教養の初心者だと言いました。

つまり、ネガティブな人は、賢人の領域に足を踏み入れているのです。

 

でも、心を病んだほとんどの人は、

宗教に逃げたり、快楽に逃げたり、薬で誤魔化したり、問題と向き合っても長い時間解決できずにいると鬱病を患ったりもしてしまいます。

 

私たちは、なぜこんなに悲しいのか?を探究し、自分が何をしたいのか?何をするべきなのか?を考え続けなくてはなりません。

 

そのためにするべきことは、他人に助けを求めたり、自己啓発本を読んでポジティブだったころに戻ろうとすることではきっとなく、おそらく、心理学・脳科学・生物学・歴史学といった学問分野の知見からヒントを得ることだと私は確信しています。

 

「今さら勉強?」と思うと憂鬱になってしまいますが…

ネガティブなあなたならきっと大丈夫です!

だって、ポジティブで快楽の亡者だったころの自分よりも、今の自分は絶対に賢くなっているのですから!

まとめ

●ポジティブな人には、嫌な情報や都合の悪い情報を無意識のうちに避ける傾向がある。

●深く考えることをやめ、楽しいこと・気持ちのいいことをたくさんやれば、脳を進化させ、ポジティブな人格を作ることができる。

●ネガティブな人は、そうでない人よりもいくらか正確な判断を下すことができる。たぶん、いくらか憂うつだけどその分だけ賢い、という人の方がいいのだろう。ネガティブな性格を誇り、前に進もう。

●それでも、社会にとってネガティブな人は有害であり、多くの人はあなたに冷たく鋭い言葉を突き立ててくるだろう。落ち込むのは一人でいるときだけにして、社交の場では明るく振舞おう。

●大体のことは時間が解決してくれるが、『ネガティブな人格』は時間とともに私たちの精神を蝕んでいく。"なぜこんなに悲しいのか?"あらゆる学問分野から重要な知見を引き出し、解決策を模索し続けよう。

参考

脳科学は人格を変えられるか? (文春文庫)

無意識の脳 自己意識の脳

徹底図解 脳のしくみ

経済は感情で動く : はじめての行動経済学

世界は感情で動く : 行動経済学からみる脳のトラップ

眠れなくなるほど面白い 図解 脳の話

奴隷の哲学者エピクテトス 人生の授業――この生きづらい世の中で「よく生きる」ために

※イラスト参考:暁山瑞希(プロセカ、ゲーム内イラスト)

www.mixa.biz

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