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ザーザーザーーー。
今の時刻は23時、天気は豪雨。
静かな部屋の中、地面を打つ雨の音だけが心地よく響いている。
あ、光った。
1・2...
バシャーーン!
690m。
今日の作業は企業分析。
財務書表から企業の安全性を確かめることが目的だ。
調べる企業は『セガサミーHD』。
初音ミクを起用したスマホゲームで有名な会社だ。
利益のほとんどがエンターテイメント事業によるもので、その利益をうまくいかない遊技機事業とリゾート施設の運営が食い潰しているという、少し難のある会社だ。
なんで僕がそんな会社に注目しているかというと、
PBR(株価純資産倍率)が1.5倍を下回ったからだ。
アニメやゲームの制作会社は、運の要素で業績が大きく左右される。
黒字経営で借金体質でなく、魅力的なIP(知的財産)を有する会社が低PBRで売られていたら、株を買って運の要素で爆益を狙うのが僕の基本戦略だ。
決して、僕が初音ミク好きのオタクだから…ではない。
あ、また光った。
1・2...あれ?後ろに誰かいる?
バッシャーーン!
「フ...ただいま、ミア。」
ミクサの投資戦略Part⑤〜セガサミーHD株をアホ買いせよ!〜
少しだけ企業分析
僕:「フ...ただいま、ミア。」
ミアは僕のパートナーだ。
普段はしっかりしているけど、少し天然が入ってる...。
このブログに登場する黄色い髪の女の子は、ミアをモデルに僕がデフォルメして描いたキャラクターだ。
知り合って10年、僕たちも年をとったものだ...。
ミア:「おかえり。また株の調べごと?うわぁ...胃もたれしそう...。」
僕:「貸借対照表だよ。それぞれの意味を理解することも大切だけど、とりあえず四角で囲った部分にだけ注目すると、企業の状態がよくわかる。」
【セガサミーHD:2023年第一四半期 決算プレゼンテーション資料より。】
僕:「この部分の数値をエクセルに打ち込んでグラフにしてみる。
右側がどうやってお金を調達したか?を表していて、上から下に行くほど大きくなっていれば経営が安定し易い。
左側はそのお金が何に形を変えたか?を表していて、こっちは上に行くほど大きくなっている方が好ましい。」
僕:「セガサミーHDの貸借対照表はいい形をしているね。」
ミア:「ふーん。でも大手だし…調べなくてもそういうとこはちゃんとしてるでしょ?」
僕:「確かに、大手ならちゃんとしているイメージだよね。
でも、僕たちは毎日たくさんのことを直感で決めているけど、結構間違えることもあるよね。
そうだな…哲学者御用達のおもしろい問題があるから、ちょっとやってみようよ。」
線路に人を突き落とせるか?
僕:「ある電車が5人の人がいる方向へ走り出しました。
このままでは5人は電車に轢かれてしまいます。
5人を助ける唯一の方法は、車線を変更して車両を支線のほうに導くことだけ。
でも、そうすると別の一人が死んでしまう…。
車線を変更することは、正しいことですか?」
ミア:「…避難するようにみんなに声をかける。」
僕:「この問題は"正しい"か"正しくない"かで答えないといけないから…
ミアの答えだと"正しくない"でいいかな?
5人に声が届く前に、電車は5人を轢いてしまうだろうけど…。」
ミア:「ほかに助ける方法は?」
僕:「問題に"唯一"って条件が定められているから、残念ながら他の選択肢はありません。」
ミア:「じゃぁ…"正しい"。」
僕:「うん。この問題に解答した大半の人が、車線変更する判断は仕方ないと考える。
この決断をして悔やんでいる人がいたら、『その決断のおかげで、あの人たちは助かったんだよ!』と、僕もきっと、そういって励まそうとするだろう…。
じゃぁ、次の質問だ。」
僕:「暴走した車両が5人のいる方向に向かっている。
なんとかしなければ5人は轢かれてしまうだろう。
あなたはその光景を陸橋の上から見ていて、今まさにその下を車両が通過しようとしている。
あなたの目の前には、かなり太った人が立っている。
あなたはとっさに判断する。
この人を線路に突き落とせば列車は止まって5人は助かるだろう…。
しかし、同時に太った人が死ぬことも確実だ。
太った人を突き落とすのは正しいことですか?」
ミア:「たぶん、私がいくら頑張って押しても、太っている人を突き落とすことはできないと思う…。」
僕:「そうだね。この問題では太っている人の体重が明記されていない...だから、体重次第では、物理的に無理ということもあり得る。
この質問では、大体の人が太った人を突き落とすべきではないと答える。
たとえ5人の命を救うためであっても、別の誰かを犠牲にすることは間違っているというわけだ。」
ミア:「でも、それじゃ最初の質問と答えが食い違ってるよ。
5人を助けることが正しいなら、太っている人を突き落とさないと!」
僕:「そう。僕たちは状況が少し変わるだけで、決断の方向性を180度変えてしまうんだ。
これを株式投資でやってしまうと、10%の損切りを見送って、50%の損失を出してしまったりする…だから、投資は合理的に考えないといけないんだ。」
ミア:「感情を排除して合理的に…
じゃぁ、運用は機械に任せるべきなんじゃないの?」
僕:「ふふ…そう言うと思ったよ。
でもそうじゃない。この話には続きがあるんだ。」
合理的な人間が投資をすると…
僕:「1848年のアメリカのとある鉄道工事現場、ここで作業主任を務めていたフィニアス・ゲージという男性が爆発事故に巻き込まれた。
気を失っていた彼が目を覚ますと、長さ1m、直径3㎝の鉄棒が、なんと彼の頭蓋骨を貫いていた。」
ミア:「うっ…これはなかなかショッキングな事故だね…。」
僕:「約10週間の入院生活を経て、彼は職場に復帰した。
でも、帰ってきた彼は、責任感が強くて、真面目で、他人に気配りができる以前の彼ではなかった…まったくの別人になっていたんだ。」
ミア:「つまり、無責任で、不真面目で、自己中心的な人格になっていたんだね。」
僕:「そう。
彼のように、前頭連合野…特に前頭眼窩(ガンカ)野を損傷した人は、感情を読み取る能力が低下する。
その結果、自身の下す決断に道徳的な感情が入らなくなることが多くの症例からわかっている。
つまり、前頭連合野を損傷した人が陸橋の上に立っていた場合、躊躇なく太った人を突き落とし、5人の命を救うだろうね。」
ミア:「なるほど…つまり、ミクサが言い出そうとしているのは、前頭連合野を損傷した人が株式投資に手を出すとどうなるか…ってことでしょ?」
僕:「当たり!
神経科学者たちは、とても巧妙な『ギャンブル課題』と呼ばれる実験を企画した。
テーブルにA・B・C・Dと書かれた4種類のカードの束が置かれている。
カードの種類は"当たり"と"はずれ"の2種類のみで、"当たり"を引けば報酬が貰えて、逆に"はずれ"を引くと罰金が課せられる…。
A・Bの束は報酬が大きければ罰金も大きく、10枚引くと250ドル損してしまう。
C・Dの束は報酬が少ない代わり罰金も少ない。10枚引くと250ドル得をする。
プレーヤーは、罰カードの出現確率については知らされておらず、それぞれの束で正確にいくら儲かるかもわからない。
更には、何枚カードを引けばこのゲームは終わるのかもわからない。」
ミア:「わかり難い実験だね。
要は…CとDの束からカードを引き続ければ勝ち逃げすることができるってことでしょ。
つまり、"CとDが良い束だということに気づけるか"がカギだね。」
僕:「正解!流石だね。
健常者の場合、40~50枚引き抜いたところでなんとなく良い束に気づいて、その束から引くようになる。
悪い束には段々と"嫌な感情"を抱くようになるんだ。
でも、前頭連合野を損傷した患者は、悪い束からカードを何枚引き抜いても"嫌な感情"を抱くことはなく、ハイリターンを求めて悪い束からカードを引いては、"はずれ"を引いて損して悔しがる。
そんなことをゲームが終わるまで繰り返すんだ。」
ミア:「はっきりと『良い』『悪い』はわからなくても、悪いものにはなんとなく"嫌な感情"を抱く…か。」
僕:「企業の『安全性』や『利回り』、『現時点で株価が割安かどうか』といったことは合理的に測定可能だけど、会社の将来性は測定不可能だから、僕たちは直感に頼るしかない。
投資で大切なのは『理性で感情を御する』ことじゃない。
理性と感情をうまく組み合わせることが大切なんだ!」
ミクサのポートフォリオ
僕:「理性と感情をうまく組み合わせることが大切なんだ!」
僕たちが話し始めてどれくらいの時間が経っただろう…
ふと、僕たちは時計に目を向ける。
ミア:「1時じゃん!?明日朝から予定があるのに…これじゃ8時間眠れないじゃない!」
ミアの理想の睡眠時間は8時間らしい。
そして、大体の日は9時間寝てる…。
ミア:「急いで寝ないと…おやすみ!」
ミアは寝室へと猛スピードで駆けていった。
さて…僕はもう少しだけ起きて投資戦略を練っておくことにしよう。
成長も投資も生産性も低く、消費者信頼感も調査開始以来最低となった。上昇しているのはインフレ、金利、銀行員の賞与のみだ。
【レイチェル・リーブス(イギリスの政治家)】
現在の世界市場は...
英国・欧州では、高インフレと消費者信頼感指数の低下から景気後退入りの可能性が示唆され始めた。
米国経済はしぶとく好調に推移しているように見えるけど…貿易赤字が縮小しているから、確実に米国人の財布の紐は閉まってきている。
日本は急速に進む円安に耐えきれず、遂に政府が為替介入に踏み切った。
でも、急速に通貨安が進んでいるのは日本だけじゃない。
中国・韓国・台湾・インドネシア…
これら国もドル売り介入をせざるを得ない状況にあって…まるでアジア通貨危機が再来したかのようだ…。
株式市場は欧州・日本・中国は景気後退が織り込まれているのか…それぞれ主要株価指数のPERは12倍前後とだいぶ調整が進んでいるように見える。
でも欧州株はインフレ率が異常に高いからこの水準が安いかどうかは疑問符がつく…。
日本株は今の為替水準なら割安だけど、たぶん、これも一時的なものになるのだろう...。
一方、米国株は下落中であるものの、PERは『S&P500』で18.12倍、『ナスダック』は23倍と…更なる金利上昇も景気後退リスクも織り込まれているとはとても言えない水準だ。
各国中銀はインフレ抑制を最優先課題としているから、おそらく、何かしらの危機が起こった際はコロナ危機のときみたいな迅速な対応は期待薄だろう...。
以上の考察から、僕はポートフォリオのリスク資産比率を大きく減らすことにした。
※銘柄比率は時価総額ベース
9月は、上旬に『バンダイナムコHD』『TOPIX』『伊藤忠商事』の株式を全て売却…。
とてもいいカードを持っていたと思っていたけど、今の相場は勝負を降りるべきと判断した。
今後の展望
現状に至るまでの市場の変化をまとめてみる…
~2020.3
ここまでは成長株主導で株価が上昇した。
2020.7~
ここからバリュー株主導の上昇相場に移行する。
2021.2~
商品市場の強気相場入り。
2022.3~
米ドルの上昇、及びバブル化。
なんてことだ…
これはジム・ロジャーズの言っていたバブル崩壊シナリオと全く同じ段階を踏んでいるじゃないか!?
80年の人生は伊達ではないのかもしれないな…。
危機を煽る人はどこにでもいる…
重要なのは"危機を前提にどう攻めるか"だ。
僕はこれから、
株式:現金=50:50
となるように、保有株が下落すれば買い、保有株が本質価値に近づけば売るという単純な戦略を採用することにする。
さて…上手くいくといいが
…FIN。
※投資は自己責任で。
参考書籍