ローマ帝国の滅亡~専門分化社会がもたらした快適さと脆弱性~


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当記事は下記記事からの続きとなっています。

【文明崩壊編】

・第一章『イースター島の文明崩壊』

・第二章『マヤ文明の崩壊』

 

CONTENTS

 

目が覚めると、そこは僕の知らない空間だった。

コンクリートで囲まれた無機質な部屋の奥…僕の正面には人間?らしきものが弓矢を構えて立っている。

体に力が入らない…

眼球すらも動かせない。

そんな状況だから逆に、僕は冷静に自分の置かれている状況を理解することができた。

「これは…助からないな。」

 

グズァッ!

頭部への強い衝撃とともに、視界が一瞬で真っ暗になった。

おそらく、前方から貫通した矢によって、後頭葉にある視覚野が損傷したためだろう。

人間が起こったことを認識するために必要な約0.5秒という一瞬だけど無限のように思える時間の中で、僕は頭の中心から外に向かって、痺れが広がっていくのを認識する。

 

もうすぐ、『僕』という存在はこの世界から消滅する。

買っただけで読んでない本、

積まれたゲーム、

行ってみたかった場所…

やり残したことはいっぱいあるけど、どれも大したことではない。

 

頑張った…うん。頑張ったんだ。

僕は十分頑張って生きた。

 

嫌な過去、楽しかった思い出、幸せだった時間を…

僕は一つずつ丁寧に思い返した。

そんな中、嫌な予感が僕の脳裏をよぎった。

 

この時間はいったい、いつまで続くのだろうか?

 

なぜ消えない!?

なぜ僕は考え続けているんだ!?

 

とりとめのない恐怖に襲われて、僕は声にならない叫びをあげた。

 

僕:「ーーーーーーーーッ!!」

 

その瞬間、視界がパッと開け、同時に体も動くようになった。

0.5秒で僕は、目の前に広がる光景を認識した。

でも…その状況を理解することはできなかった。

 

僕:「どうなっているんだ…?」

 

アンティーク調に統一された広い部屋…

その奥には、赤毛の女性が立っていた。

 

ローマ帝国の滅亡~専門分化社会がもたらした快適さと脆弱性~

よく頑張ったね。

何が起きてる!?

どうやって僕はここに来た!?

 

ざわつく気持ちを必死に抑え、僕は彼女に声をかける。

 

僕:「レイちゃん…君はいったい…」

 

レイちゃんは僕に背を向けたまま、窓の外…ずっと遠くを見つめながら、ゆっくりと口を開く。

 

レイ:「チャバネアオカメムシ…

農作物を食い荒らすこの害虫を無農薬で駆除できるとして、マルボシハナバエという寄生ハエを用いた駆除法が考案された。

 

このハエは、カメムシの出す臭いを頼りに寄生に適した個体を見つけ出すと、背後から近づき、カメムシの背中にすがるような行動をする。

カメムシが振り払おうと翅をバタつかせたその瞬間、露出した腹部に素早く卵を産み付けるんだ。

 

孵化した幼虫は皮膚を食い破り体内へと潜入する。

 

1週間後、このカメムシはどうなっているだろうか?

ウジによって体の大部分を食い荒らされているその様は、誰が見ても悲惨だと思うだろう…

しかし、もっと悲惨なことに…このカメムシはまだ生きていたんだ。

 

幼虫はカメムシを殺さないように慎重に、重要な臓器や神経を避けて食べていた

 

外部から刺激を受けると、足をもぞもぞと動かせる…

それだけでも幼虫にとっては、外敵から身を守るのに役立つからだ。

 

終齢幼虫が脱出するその時まで、カメムシを襲うこの苦しみは続く。

 

フリッカー融合頻度基本的に生物は、体が小さい個体であるほど、時間の流れを遅く感じ取る。

ディスプレイにあるフレームレートは知っているだろう?

人間の脳は60fpsを処理できるが、カメムシは遥かに多い240fps以上を処理できるらしい。

 

もし、そのカメムシが自覚できたなら…自分の状況を理解して、先に死を選ぶことができたなら、そうするだろうか?

…きっと、そうするだろう。

 

ミクサ…自ら進んで死を選ぶ者を鬱病だというのなら、"正常な状態"とは何だろう?

 

抗うつ剤を飲んでポジティブになることだろうか?

見たくない情報に蓋をして、楽しいことだけ考えて生きることだろうか?

 

それなら私は...異常のままでいたい。」

 

僕は沈黙したまま周囲を見渡した。

この部屋には大きな本棚が4つあって、どの本棚もびっしりと本が詰まっている。

レイちゃんはこれらすべてを読んだのだろうか?

もしそうなら…何がレイちゃんにこれだけの本を読ませたのだろうか?

 

そんなことは考えなくてもわかる…

僕も同じだからだ。

 

僕:「レイちゃんも、怖かったんだね…」

 

心の傷は外傷とは違う、

年を重ねたところで癒えることなんてない。

親から、集団から、権力者から受けた苦しみは、不意に脳裏をかすめては僕たちをその時間に巻き戻す。

 

痛みは人を強くする?

もしそんな戯言が本当なら、集団のリーダーは常にその中で一番、心も体もボロボロでなくてはいけないだろう。

実際は違う…むしろ、その逆じゃないか!

 

???:「これまでよく、頑張ってきましたね。」

 

数年前の記憶…

少しだけど、心を和らげてくれたあの言葉を、僕は彼女にかけることにした。

 

僕:「これまでよく、頑張って耐えてきたね。

大変…だったよね。」

 

僕は昔の記憶を思い返す。

 

???:「これまでよく、頑張ってきましたね。

大変でしたよね?

私も同じ、あなたの仲間です。

私があなたをサポートします。

一緒に、この腐った世界を生き抜きましょう。」

 

嬉しかった…認められた気がしたから。

でも、僕は理解していた…

 

僕:「僕の経験した出来事なんて、大したものではないですよ。

もっと辛い経験をしている人が、この世界には沢山いますから。

でも…ありがとうございます。

大分、軽くなった気がします。」

 

レイちゃんは僕に背を向けたまま、目の位置をそっと指で撫でると、僕の方を見る。

その顔は、いつものレイちゃんだった。

 

レイ:「ローマ帝国の文明崩壊…

文明が崩壊するとはどういうことなのか…

私はミクサに、知っていて欲しいんだ。」

 

 

パクス=ロマーナ

レイ:「ローマ帝国…西暦紀元2世紀の世界で、この国ほど豊かな国土と開けた社会を有していた国はなかった。

 

平和主義者でもあった初代皇帝のアウグストゥスは、国家の諸会議に"抑制"の精神を取り入れ、世界征服の野望を擲(ナゲウ)った。

 

賢明な判断だった。

 

帝国領土はすでに、共和制時代に十分に拡大していたため、これ以上の新たな軍事行動で得られるものなどほとんどないことが容易に見通すことができたからだ。

 

"既得の領土をただ守り抜くだけで満足する"というこの指針は、後の皇帝にも受け継がれた。

途中ブリタニアとダキアを併合するも、五賢帝による優れた統治にも恵まれ、

ローマ帝国は200年もの間、帝国内の誰もが平和を享受できる時代…パクス=ロマーナを謳歌した。

 

トラヤヌス帝の時代:ローマ帝国最大領土

僕:「最近は、『日本はこれからローマ帝国のようになる』って…よく言われてるよね?

これから日本の平和『パクス=ジャポニカ』が始まるのかな?

それとも…もう終わろうとしているのかな…

 

レイちゃんは本棚から一冊の本を手に取ると、僕のささやかな疑問に関心を寄せることなく、話の続きを語り始めた。

相変わらず、凄いスルースキルだ!

 

レイ:「五賢帝の一人、『人格者』アントニヌス・ピウス…彼は、自分の一族の利益よりも国民の福利を優先させた。

 

内政を充実させただけでなく、財政面においても、しかるべき浪費が抑えられ、よく改善された。

 

金持ちには豪奢な生活を送り散財することが奨励された。

富裕層がお金を使えば、帝国内の隅々まで富を循環させることができると考えたからだ。

 

でも…その目論見は失敗に終わる。

彼らの欲求は『帝国内で得られるもの』から次第に『帝国外でしか得られない物』へと移っていった。

 

資産家たちは、遠いアジアの国々から絹や香料、真珠などが船に積まれて運ばれてくると、法外な価格でこれらを買いあさった。

中国やインドは、ほぼ自国の産品で足りていたが、ローマの交易品としてはほとんど銀しかなかった。

 

こうして、取り返しがつかないほどの国富が国外へと流出することになる。

通貨の価値が下がると、平民は生活水準を維持するために借金に頼った。

 

僕:「僕たちは外国で作られたコンピュータ外国で作られた検索エンジンを使って、外国で作られたコンテンツを、外国で作られたプラットフォームを介して消費している…

物価も上昇しているし…これからどうなっていくのかな?」

混乱の時代

レイ:「五賢帝最後の皇帝マルクス・アウレリウス…

彼の時代になると、この大帝国の輝きにも次第に陰りが感じられるようになる。

 

168年…『アントニヌス・ペスト』と呼ばれる未知の疫病が蔓延。

帝国内に多大な被害をもたらしていた。

 

更には、この好機を逃すまいと、ゲルマン人がドナウ川を渡河(トカ)…帝国内へと侵入する。

 

度重なる蛮族の侵攻に対して、マルクス帝は敢然(カンゼン)と立ち向かったが…

遂に疲労も限界に達し、戦いを指揮していたウィンドボナにおいて病死する。

 

『哲人皇帝』と呼ばれたマルクス帝の唯一の欠点は、その慈悲深い性格であった。

人を疑うことを知らない彼は自身の息子であり、かの有名な暴帝…コンモドゥスを次期皇帝に任命してしまう…

 

そしてこれ以降ローマは、誰の目にも明らかな衰退へと向かっていく。

 

僕:「賢人マルクスの息子が、そんなに酷かったの?

皇帝なら息子の教育にいくらでも投資できたと思うけど…。」

 

レイ:「確かに、マルクス帝は彼に考えられる限り最高の教育を施した。

ただ、最高の教育を受けたからといって、誰もが賢人になれるわけではない。

コンモドゥスも例外ではなかった…それだけだ。

 

彼は国政を寵臣(チョウシン)たちに任せると、自身は数百人の美女の住む後宮で、ひたすら快楽に明け暮れた。

 

また、余程暇だったのだろう…円形闘技場において民衆を前に特技の野獣狩りを披露する始末。

観客からの喝采に気をよくした彼は、ギリシアの英雄ヘラクレスに似せた自分の彫像を帝国内のあちこちに建てらせた。

 

外国から数千匹の野獣が運ばれてきては、大観衆の熱視線の下、理不尽にも次々と殺されていった。

 

猜疑心の強いこの暴帝は粛清にも力を入れた

真面目な者、優秀な者、父帝と友人関係にある者には直ちに嫌疑がかけられた。

嫌疑はすなわち確証となり、裁判はすなわち有罪となった。

 

僕:「酷いな…僕でももう少しマシな政治ができそうに思えてくるよ。」

 

レイ:「192年…この暴君の悪政にも遂に終焉が訪れる。

コンモドゥスの残忍さに『次は我が身』と恐れた近臣たちが、野獣狩りに疲れた彼に毒入りの葡萄(ブドウ)酒を飲ませて殺害した。

 

13年にも渡り臣民を恐怖に陥れた暴帝の抹殺がこれほどまでに容易であったとは、嘆かわしい限りだろう?

 

その後帝国は、蛮族の侵攻や軍人皇帝の暴政に悩まされる混乱の時代に突入する。

新皇帝が帝座に就いては、数カ月から数年で蛮族との戦争で、または身内による暗殺によって命を落とした。

 

君主に対する臣民の忠誠心は擦り減り、やがて、帝国のいたるところで帝位簒奪(サンダツ)の狼煙(ノロシ)が上がる

 

簒奪者は登位するや、あらゆる手を使って、疲弊した人民から金銭を搾取しては、兵士たちに賞与金として与えた。

そうしなければ、自分の身が危険だったからだ。

 

帝国の疲弊は極まり、瓦解(ガカイ)に瀕していた。」

帝国の東西分割

レイ:「376年、フン族という恐ろしい蛮族が突如現れ、ゲルマン世界に侵攻した。

これによりゲルマン諸民族は安全な定住地を求めて、俗にいうゲルマン民族の大移動を開始する。

帝国は100万人にも上るとされるゴート族の定住を認めたが、その後の対応がマズかった…

定住地では、犬や病死した動物の肉といった極めて劣悪な食品が法外な値段で売られ、パンを買うだけでも奴隷や子供を手放さざるを得ない状況に陥っていた。

 

また、追い打ちをかけるように帝国は、困窮する彼らに対して酷税を課した。

 

限界に達した彼らは宣戦を布告、ハドリアノポリスの戦いに発展する。

この戦いでローマは、軍の3分の2を壊滅させられ大敗に喫する。

 

時の皇帝テオドシウスは、彼ら蛮族に定住地と自治権を認めることで、この争いを終結させた。

 

こうして、数万人規模のゴート人が帝国兵士に加わると、帝国は国防に対する蛮族への依存度を急速に強めていった。

 

テオドシウス帝は帝国を東西に分け、2人の息子に継承させた。

 

これ以降帝国は、『ローマ(※後にミラノ→ラヴェンナに移る)』を首都とする西ローマ帝国と、『コンスタンティノープル』を首都とするビザンツ帝国に分かれ、それぞれ異なる文化、言語、宗教を発展させていった。」

 

『ビザンツ帝国』か…意図的だな。

まぁ、僕たちは歴史家じゃないし、その地に住んでいたわけでもないから、別に気にすることでもないな。

 

僕:「国防を傭兵に頼るなんて…まさに『諸刃の剣』だね。」

帝国の滅亡

レイ:「ハドリアノポリスの戦い以降、ローマ人とゴート族間のパワーバランスは逆転

蛮族たちはローマ側の対応に不満を覚える毎に、以前より一段と大胆な反抗的態度を見せるようになっていた。

 

更に、この一件に触発されて他のゲルマン諸族も次々と帝国内に侵入、帝国領土を略奪すると自分たちの王国を打ち立てていった。

 

ブリタニアではコンスタンティウスなる者が皇帝を僭称(センショウ)…ローマの駐留軍を同島から追い出してしまう。

 

439年、ヴァンダル族が帝国の生命線でもあったアフリカを支配すると、帝国内への穀物供給が断たれてしまう。

 

こうした一連の民族移動の結果、470年代には西ローマ帝国領土はイタリアを残すだけとなっていた。

帝国の財源は枯渇し、もはやゲルマン人の傭兵に対する給与の支払いすらも滞っていた。

 

自分たちは、イタリア本土の土地を所有することすら認めてもらえない…その一方で、他のゲルマン諸族は力によって自らの王国を次々とうち建てている…

 

こうした状況に不満を募らせた傭兵たちは怒り、傭兵隊長であったオドアケルを指導者に推すと、476年、大規模な暴動を起こして、ローマ軍司令官のオレステスを殺害、その息子であり帝国最後の皇帝…ロムルス・アウグストゥルスを追放すると、オドアケルの王国を建国する。

 

こうして、ゲルマン民族の大移動からほぼ一世紀…

帝国最後の領土にして、帝国発祥の地でもある『ローマ』の占領により、西ローマ帝国は事実上壊滅したのであった。」

文明崩壊後の世界

僕:「確かに、オドアケルによって西ローマ帝国は壊滅させられた…

でも、現在もイタリアは国家として存在していて、そこには人が住み、独自の技術や伝統を発展させている。

 

文明崩壊…それっていったい何を意味するのかな?」

 

レイ:「"今"という時代を生きる私たちは、"過去ローマ帝国であった今の国々"を見て、文明崩壊の歴史を好意的に捉えようとする。

 

だが、文明崩壊後の混乱の時代を生きた人々にとって、この出来事は決して、好意的に捉えることなどできなかっただろう。

 

スコットランドの歴史家、ウィリアム・ロバートソンの言葉を借りれば、

蛮族が定着して1世紀も経たないうちに、ローマ人がヨーロッパ中に広めた知性と教養の影響力はほとんどすべて失われた。

贅沢に支えられた優雅な技術のみならず、それなくしては生活が快適であるとはほとんど考えられない、数多くの有用な技術も、顧みられず、あるいは失われた。

 

つまり、かつて快適な生活を支えていた複雑な技術の大半が失われた

数多くの考古学的証拠は、5世紀から6世紀にかけて、帝国西方の生活水準が驚くほど衰退したことを示してしまった。

 

考古学者や歴史学者らの入念な調査の結果、

轆轤(ロクロ)で生成された美しい陶器、

ありあまる異国の香料や食物や葡萄酒、

高度な識字能力、

大型の教会、

モルタルで固めた煉瓦(レンガ)と石材の建築など…

かつて帝国内に広く普及していたこれら複雑な技術は、200年…地域によっては1000年ものあいだ姿を消していたことがわかった。

 

僕:「専門分化社会の弊害だね。

 

古代ローマの経済は複雑に繋がりあったシステムだから、その洗練が逆に、システムを変化に対して脆弱で融通の利かないものにしてしまっていたんだね。

 

僕たちの高い生活水準は、

質の高い品物を大量生産できる技術力と熟練した職人の存在、

これら品物を効率的に流通させるための輸送と商業のネットワーク、そして、

支払いのための金銭と消費者からなる巨大な市場…

これらが組み合わさった複雑な専門分化社会が滞りなく円滑に機能している間のみ享受できるもの…。

 

もし、その一つでも欠けてしまったら、僕たちの社会も西ローマ帝国のようになりかねない…ということだね。」

 

本当のことをいえば…僕はこの話について意外にも、それほどネガティブなことには思えなかった。

 

確かに、僕たちの生活は恐ろしく便利で快適なものになった。

でも、その快適さと引き換えに、多くの人が抑圧に耐えることを余儀なくされている。

僕たちの裕福な暮らしは、大勢の人々の貧困の上に成り立っている。

こんな世界が本当に、正しい在り方だと言えるのだろうか…?

 

僕:「レイちゃん、帝国が壊滅して、人々は不幸になったのかな?

 

レイちゃんは手に持っている本を本棚に戻すと、並んでいる本を眺めながら答えた。

 

レイ:「さぁな…生活は不自由になったし、みすぼらしくもなっただろう。

危険にもなっただろうし、死もより身近になっただろう。

 

でも少なくとも、

美しさには欠けるが、陶器は作ることができた。

高さ30mも超える巨大なゴミの山をもう一つ作る必要はなくなったわけだ。(※ローマ市には『モンテ・テスタッチョ』と呼ばれる壊れた陶器でできた丘がある。)

 

頑丈ではないまでも雨風を凌げる家は作れたし、教会もかなり小型化されたが…むしろそれが自然だろう。

 

多くの人が文字を書く能力を失ったが、同時に、"エリートは識字能力を持たねばならない"という社会的圧力からも解放された。

 

権力者や、敵よりも恐ろしい上官からの叱咤激励に怯えることもなくなったし…(※ローマの将軍には命令に従わない者に対し死刑を宣告する権利が与えられていた。)

 

それになにより、野生動物たちが殺されるためだけに輸入されることもなくなった。

 

僕は安心して、肩をなでおろした。

 

僕:「"下る人生"っていうのも…悪くはないのかもしれないね。」

 

レイ:「そろそろ時間だ。」

 

ゴーン、ゴーン…

 

レイちゃんがそういうと、壁に掛けられた古風な時計が鐘の音を鳴らした。

 

意識が朦朧(モウロウ)としてきて、視界が滲む…

どうやら、ここにはもう居られないらしい。

 

僕:「最後に一つだけいいかな?

レイちゃんは、ローマの皇帝の中で誰が一番好き?」

 

レイちゃんは少し笑みを浮かべて答える。

 

レイ:「なんだその質問は?

・・・『人格者』アントニヌス・ピウスかな。」

 

僕:「そっか。…僕は、僕にできることをやってみるよ。」

 

視界は真っ白になり、間もなくして僕は意識を失った。

 

 

 

シエル:「そろそろ、話を進めないか~?」

 

To be continued…

怒りを抑える。快楽の誘惑に負けない。苦痛に耐える。名声を求めない。そして、非人情で感謝しない者たちを怒らず、穏やかに彼らを受け入れる。それらができれば、人は理想的である。お前にもできるはずだ。

【マルクス・アウレリウス・アントニヌス:第16代ローマ皇帝】

 

※当記事は下記の資料を参考に作成しています。

・新約ローマ帝国衰亡史(エドワード・ギボン著)

・ローマ帝国の崩壊~文明が終わるということ~(ブライアン・ウォード=パーキンズ著)

・一度読んだら絶対に忘れない世界史の教科書(山崎圭一著)

・「こころ」はどうやって壊れるのか~最新『光遺伝学』と人間の脳の物語~(カール・ダイセロス著)

マルボシハナバエの実験

https://www.jstage.jst.go.jp/article/kyubyochu1955/23/0/23_0_153/_pdf/-char/ja

 

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