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人生に満足した者だけが辿り着ける極致『アタラクシア』を目指して。
病んでいても仕方ないので...。
トレッドミル効果
最も小さなことにでも満足できる人が最も裕福な人である。なぜなら、満足を感じることこそが、自然が与えてくれる富だからだ。
【ソクラテス(古代ギリシアの哲学者)】
新しい車を買う。
「この美しい車を所有すればきっと、今よりももっと幸せになれる!」
3か月後、私たちの幸福感は、車を買う前の水準に戻っています。
スマホの最新機種を買った。
「毎日使うものだから値段じゃなくて性能で選ばないとね♪」
3カ月後、私たちの幸福感は、機種変する前の水準に戻っています。
収入が増えた。
「去年よりも裕福な生活ができる!さて、なにを買おうかな~」
3カ月後、やっぱり幸福感は収入が上がる前の水準に戻っています。
出世し、より多く、より美しいものを手に入れることで、私たちは満足し、幸せを感じることができます。
しかし、そこから得られた満足感はすぐに消滅し、また"新たに"新しいものを欲しがるのです。
私たちが有するこのような性質を心理学者たちは、
トレッドミル効果と呼びました。
私たちは快楽を追い求め、満足のトレッドミル(ランニングマシーン)上を走り続けているのです。
ではなぜ、私たちの満足感は長く続かないようにできているのでしょうか?
珍しい変異の結果、バナナを一本食べただけで、満足感が永久に続くサルが誕生したとします。
このサルはきっと、すこぶる幸せで、すこぶる短い一生を享受し、その珍しい変異もそこまでとなっていたことでしょう。
なぜなら、その満足した幸せなサルは、新たに新しいバナナを探そうとはしないし、交尾相手を探そうともしないからです。
そこで、当記事では、私たちの追い求める『快楽』とはいったい何なのか?そして、人類による快楽追究の限界と、『満足のトレッドミル』から抜け出す方法について考察していきます。
幸せ=快楽=電気ショック
特定の脳領域で電気の嵐が発生した場合には、その人がおそらく怒りを感じていることを、科学者たちは知っている。この嵐が収まり、別の領域が活性化すると、その人は愛を感じていることがわかる。科学者は適切なニューロンを電気的に刺激して、怒りや愛の感情を誘発することさえできる。
【ユヴァル・ノア・ハラリ(歴史学者:著書『ホモ・デウス』より)】
快楽を追究することが人間の幸福なのであれば、『幸せ』の感情はもはや、科学的に作りだせると言っても過言ではないでしょう。
心理学者のジェームズ・オールズとピーター・ミルナーは、外科手術でラットの脳に電極を埋め込み、電流を流すことでラットの行動にどのような影響が出るのかを調べました。酷い実験だ…
彼らが知りたかったのは『睡眠と覚醒のサイクルを、脳がどのようにしてコントロールしているか』ということで、過去の研究から関りが強いと指摘されていた中脳網様体と呼ばれる部位に電極を埋め込んだのです。
しかし、電極にスイッチを入れるレバーを押しても、ラットの覚醒レベルには変化が起きませんでした。
その代わりに、その後、このラットは不思議な行動をとるようになります。
それまでゲージの中を走り回っていたラットが、急に立ち止まると、レバーを押したまさにその瞬間に居た場所へと吸い込まれるかのように駆け戻ってきて、何かを催促しているようなジェスチャーを始めたのです。
この行動を不思議に思った彼らは、ラットにレバーを渡し、何度でもレバーを押してよいという自由を与えることにしました。
すると、ラットはどれだけ電流を流しても飽き足らず、何度も何度もレバーを押し続け、なんとその回数は1時間に2000回にも及んだのでした。
このラットは、空腹時でも食事よりもレバーを優先し、交尾する相手が目の前にいても、レバーがあればレバーの所に駆け寄るのです。
この行動を見て彼らは、自分たちが電極を埋め込んだ場所は『中脳網様体』ではなく『側坐核』だったことに気づいたのでした。
この実験をきっかけに、後に側坐核は『報復中枢』や『快楽地帯』として知られるようになります。
このラットの実験に触発されたアメリカの精神科医、ロバート・ガルブレイス・ヒースは、なんと人間の脳に電極を埋め込んで同様の実験を行ったのです。
この実験では、被験者の若い男性はラットの時と同じように、脳の電極にスイッチを入れるレバーを手渡され、やはり、ラットと同じようにレバーを何度も何度も押す行為を繰り返したのです。
その回数は3時間のセッションで1500回にも及んだのでした。
側坐核に微弱な電流を流すことで得られる快楽…
こんなものを得るために、私たちはいったい、どれだけのものを犠牲にしてきたのでしょうか。
モーツァルトは、自分の愚かさから人生を台無しにした。もちろん彼の業績は失われないが、その暮らしぶりは惨めというしかなかった。いつもお金を浪費していたからだ。同じことをすれば、あなたの人生も惨めなものになる。
【チャーリー・マンガー(天才投資家)】
快楽追究の限界
すべての動植物は指数関数的に増加する傾向があり、生存可能な場所ならばそこで急速に数を増やすはずなのだが、指数関数的な増加傾向は一生のうちのある段階で起こる大量死によって抑えられているにちがいない。…毎年何千頭もの家畜が食料として殺されていることや、自然界でも同じくらい大量の死がもたらされていることを、われわれは忘れがちある。
【チャールズ・ダーウィン(生物学者:著書『種の起源』より)】
『ダーウィンの進化論』として知られるチャールズ・ダーウィンは、自身の著書『種の起源』の中で次の表を何度も用いて、自然淘汰(有利な変異が保存され、不利な変異は排除される自然のメカニズム)と絶滅の原理を説明しています。
地球上の生物は自分たちの種の存続のため、個体数を可能な限り増やそうとしますが、際限なく種を増やしていくとやがて、大きな壁にぶち当たります。
食糧不足、縄張り争いの熾烈化、天敵の出現…。
そういった環境にずっと置かれていると、種の中から変異種が生まれることがあります。
この変異種は、生存に有利な能力を身に着けており、やがて弱い祖先種を絶滅に追い込んでしまうのです。
これが自然淘汰と絶滅の原理です。
この原理は、私たち『ホモ・サピエンス』にも当てはまります。
人間は、技術を発展させることで食料不足を克服し、社会システムを築くことで縄張り争いを回避し、食物連鎖を上り詰めることで、天敵となる生き物を排除してきました。
しかし…
たとえば、地球温暖化はどうでしょう?
JCCCA(全国地球温暖化防止活動推進センター)は、産業革命以降の現在までで、地球の平均気温は1.09℃上昇しているとの調査結果を報告しています。
国立環境研究所と東京大学気候システム研究センターは、このままのペースで温暖化が進むと、100年後には地球の平均気温は5.8℃上昇すると予測しています。
地球の平均気温が1~3℃上昇すると、生物種の20~30%が絶滅の危機に瀕すると言われていますが…5.8℃も上昇するといったい、どれだけの生物が絶滅してしまうのでしょうか。
今、中国やインド、ブラジルといった人口の多い国では、生活水準に不満を持つ人たちがたくさんいます。
彼ら(彼女ら)は、これから豊かになり、快楽の追究に猛進するでしょう。
これら国は、温暖化を気にして発展することをやめたりはしません。
なぜなら、不公平だからです。
人口と経済成長の上限は無限ではなく、『地球の気温』という限界があったのです。
自分たちによる快楽の追究が、自分たちの身を亡ぼすとは…とても皮肉で、この上なく嘆かわしいことですね。
アタラクシア
快楽を遠ざけることで、あなたはどれほど喜び、自分で自分を讃えることになるかわかるだろう。
【エピクテトス(古代ギリシアの哲学者)】
人生における成功の定義は、
『物質的な成功』と『内なる成功』の二つに分かれます。
『物質的な成功』は、
お金持ちになることや、金メダルをとること、人気者になることもそうですし、結婚して家庭を築くこともこれに含まれます。
『物質的な成功』の特徴は、自分自身ではそれを完全にコントロールすることが不可能なことです。
身体・評判・財産・地位
これらは、得るときも、失うときも、自分の裁量ではどうにもならない運の要素が絡んできます。
一方、『内なる成功』は平静な心を手に入れることで、『物質的な成功』とは対照的に、自分で完全にコントロールできるものだけに意識を集中させ、自分でコントロールできないものを軽く見ることで到達できます。
古代ギリシアの哲学者たちは『内なる成功』のことを
アタラクシアと呼びました。
他人の考え方を変えさせることはできませんが、自分の考え方は自分で決めることができます。
裕福な生活を送ることはできなくても、今の生活に満足することはできます。
若さをいつまでも保つことはできませんが、自分が老いて、いつか死ぬことを受け入れることはできます。
あらゆるものを奪われた人間に残されたたった一つのもの、それは与えられた運命に対して自分の態度を選ぶ自由、自分のあり方を決める自由である。
【ヴィクトール・フランクル(心理学者)】
そろそろ、快楽の追究は止めて、内なる成功(アタラクシア)を目指してみてはどうでしょうか?
まとめ
●物質的なものから得られる幸福感は、短期間のうちに消失する。これを理解することが、自分にとって何が大切なのかを知るうえで重要な一歩になるだろう。
●私たちが知り得る全ての快楽は、脳の側坐核に微弱な電流を流すことで得られる快楽に劣る。
●人類による快楽の追究が、地球の生態系を壊し、温暖化を招いた。それでも、多くの人は快楽を追究し続けるだろうが…それには自然に打ち勝つことが必要となるだろう。
●住む家と十分な食べ物があれば、それ以上にどれだけカネがあろうと幸福感に差はほとんど生じない。これは、すでに研究で証明されている事実である。
●この世界は、自分自身ではどうしようもないことで満ちている。「仕方ない」と割り切って前に進み続けることは、苦痛で深い憂鬱感を伴うが、それでも進み続けるだけの価値がある。
参考書籍
Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法
Think right 誤った先入観を捨て、よりよい選択をするための思考法
反脆弱性―不確実な世界を生き延びる唯一の考え方 上下巻セット
ホモ・デウス 上 テクノロジーとサピエンスの未来 ホモ・デウス テクノロジーとサピエンスの未来
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