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「普通、これが常識だろ」とか言うヤツって何なの?~フォールス・コンセンサス効果の恐怖~
フォールス・コンセンサス効果
❝普通の人は、自分が苦労して得た考えを他人に言ってしまうと、自分のことを大きく過信するようになる。世界はバカげているほど自信過剰な人々で満ちている。もちろん、彼らは多くの過ちを犯すことになる。❞
【チャーリー・マンガー(天才投資家)】
「普通に考えて、これが常識だろ?」
世界は、『自分の考え方は一般的だ』と思い込んでいる人々で溢れています。
彼らは、自分の考えに自信を持っているので、やがて、その考えを他人に強要するようになります。
相手が賛同すれば「ほらね」と自信に磨きがかかり、賛同しない者は『変人』と言われ差別の対象とされるのです。
心理学者のリー・ロスは、大学生を対象に次のような実験を行いました。
彼は大学生に声をかけ、ある仕事をやってくれないか?尋ね、報酬については「何かしら役に立つものが手に入るはずだよ。」とだけ説明しました。
仕事の内容は、「ジョーズで食べよう」と書かれたポスターを背中に張り付け、サンドイッチマンよろしく大学のキャンパスを30分ほど練り歩くというものでした。
この実験では、半数の参加者が『仕事を引き受ける』と回答しました。
彼は、実験参加者全員に簡単なアンケートに答えてもらい、実験終了後に集計を行いました。
集計の結果、
仕事を引き受けた学生は『全体の62%の学生が自分と同じように仕事を引き受けた』と考え、仕事を断った学生は『全体の67%の学生が自分と同じように仕事を断った』と考えていたことがわかったのです。
また、仕事を引き受けた学生は、断った学生のことを『臆病者』、仕事を断った学生は、引き受けた学生のことを『変なヤツ』と考える傾向にあることも判明しました。
「自分と同じように考えない人はどうかしている…」
他人に自分を投影させてしまうこのような傾向を心理学者たちは
フォールス・コンセンサス効果と呼びました。
『スイスの知の巨人』ロルフ・ドベリは、進化心理学の観点から、なぜ私たちにこのような性質が備わっているのか述べています。
私たちの脳は、真実を認識するようにではなく、できるだけ多くの子孫を残せるようにつくられている。大胆で確信に満ちた態度をとった人は、まわりによい印象を与え、多くの人の心をとらえて、自分の遺伝子を後世に残す確率を上げることができた。疑い深い人は魅力に欠けたのである。
『常識』を語れるほど『常識』を知らない
面倒を起こすのは、知らないことではない。知らないのに知っていると思い込んでいることだ。
【マーク・トウェイン(著作家)】
『経済の仕組み』『世界の歴史』『数学の定理』『物理法則』…
私たちは世界常識の何パーセントを理解しているのでしょうか?
おそらく…それぞれの専門書を開けば数分もしないうちに、自分が何も知らないことに気づくでしょう。
『自分は実際よりも多くのことを知っている』と思い込んでしまう現象を心理学の用語で
知識の錯覚といいます。
実のところ、私たちは『常識』を語れるほど『常識』を知らないのです。
では、『常識』を『みんながそう考えていること』としてみましょう。
『みんなが選ぶ数字を当てる』というユニークなゲームがあるので紹介します。
Q…これからあるゲームをします。
参加者には0~100までの中から数字を1つ選んでもらいます。
その数字を全員分集計して、平均値を出し、平均値の3分の2に一番近い数字を選んだ人が勝ちとなります。
あなたなら、どの数字を選びますか?
数字は決まったでしょうか?
このゲームでは、
勘の鋭い人は『10~20の間』の数字を選ぶそうです。
なぜそうなるのでしょうか?
まず、参加者は0~100までの数字を選ぶので、その平均は『50』です。
ここから、私たちの思考は大きく分けて四段階に分かれます。
一段階目…『50』の3分の2だから『33』を選ぶ。
二段階目…みんなが『33』を選ぶからその3分の2の『22』を選ぶ。
三段階目…みんなが『22』を選ぶんだからその3分の2を…アレ?こうやってどんどん小さくしていったら最終的に限りなく0に近づく…これって『ナッシュ均衡』じゃん!!答えは『0』だ。疑問の余地はない!
ナッシュ均衡は経済学の用語で、誰もが最適な選択をしている状態のことをいいます。
経済学の訓練を受けすぎている人は、瞬時にこの答えにたどり着くようですが…おそらく、そこまで合理的な人間はそんなに多くはいないでしょう。
そこで、賢い人は思考の最終段階に進みます。
四段階目…みんなの考えは、大きく分けて上の三段階...『平均的な考え』を求めるのだから...3つの思考の平均値は『18』これでいこう!
となるわけです。
※賢い人たちは、参加者の頭の良さを推測して、頭の良い人が集められているようなら『0』を加重平均したりもするでしょう。
イギリスの経済紙『フィナンシャル・タイムズ』が読者を対象に主催した際は、『13』を選んだ人が勝者となりました。
『みんなが選ぶもの』と『自分が選ぶもの』は意外と一致しないものですね。
後件肯定の誤謬
クルイロフ寓話には『クマの友情』という話があります。
❝田舎で一人暮らしをしている隠者がクマと友だちになった。
ある暑い日に二人は森や野原をぶらついていたが、隠者の方が先にくたびれて、木の陰で横になり、やがて眠りに落ちた。
クマは見張りについて、友達の顔にとまるハエを追い払ってやった。
しかし、ハエはますますうるさく飛び回って鼻にとまり、追い払うと今度は額にとまる。
クマは前足で大きな石を抱え上げ、「このうるさいハエめ。おれが黙らせてやる!」と言うと、額にとまっているハエめがけて石を叩きつけた。
この一撃でハエもろとも頭蓋骨は砕け、友だちはいつまでも起き上がらなかった。❞
『親切なバカ』は『賢い敵』より質が悪い。
この話から得られるのはそんな教訓です。
日本の教育では、『怒られることは有難いこと』だと教えられます。
すると、この国に住む"親切なクマ"は『怒ることはすべて親切である』と考えるのです。
論理学において、このバカげた解釈法は
後件肯定の誤謬と呼ばれています。
「今の君があるのは、私の圧迫教育のおかげだと思わないかい?」
この国の"親切なクマ"は、『病気になって会社を辞めた人』『怒って会社を飛び出していった人』のことは、どうやら覚えていないようです。
唯一の『普通と常識』
自分に知らないことがあるかもしれないと考えるのは恐ろしい。だが、もっと恐ろしいことがある。世の中というものが概して、自分は何もかも知っていると信じている人々によって動いていることだ。
【エイモス・トベルスキー(心理学者)】
『他人の考えが間違っていると思えば、遠慮なく干渉し、正しい考えを教えてやり、相手が考え方を変えなければ、強制することも辞さない…これが本当の親切であり、友情のあり方である。』
こういった考え方を
パターナリズムと言います。
この思想は、他人の自由に対する重大な侵害であると同時に、当人に対しても重大なリスクが伴う危険な考え方であることを、私たちは理解しておかなければいけません。
え?どこに危険があるのかって?
自分よりも立場が弱い者が、自分に危害を加えない?その根拠は何でしょうか?
2010年12月17日のチュニジア。
ここには、幼少時代に父親を亡くし、家族の生活と借金の返済のため苦しい労働に日々耐え忍んでいる貧しい青年がいました。
この日の朝、ある警官がこの青年に近づいてきて、何かしらの規則を破った罰であると言って、青年を平手打ちし、父親を侮辱すると、青年の唯一の商売道具である手押し車を積荷ごと持ち去ってしまいます。
青年は文句を言いに役場へと向かいますが、まるで相手にされず、怒りと無力感を抱きながら役場を後にします。
数時間後、青年は再び役場に戻ってきます。
『ガソリンの入った携行缶』と『マッチ』を握りしめて…。
これまで、チュニジアでは日常茶飯事だった『警官による貧乏人に対する嫌がらせ』はこの日、
青年を燃焼自殺に追い込み、
その光景を撮影した動画を拡散させ、
デモや暴動を引き起こし、
23年にわたる独裁政権を崩壊させたのです。
これが『アラブの春』の起源です。
ガソリン•火•インターネット•ボイスレコーダー•カメラ•ナイフ...
上下関係に関わらず、これらは誰にでも持つことができるものです。
私たちは、自分が何もかも知っていて、自分を常識のある人間だと思い込み、自分と違う他人の行動に腹を立て、怒り、自分の思想を強制させようとさえします。
当記事で、私が言いたいことはたった一つです。
「普通に考えて、『私たちは常識を語れるほど常識を知らないんだから、自分と同じ考えをするよう他人に強要するべきではない!』これが常識だろ?」
以上です。
社畜サラリーマンに幸あれ☆彡
まとめ
●ほとんどの人は、自分の考えが普通であり常識的だと信じている。しかし、他人も同じように考えていることも理解しよう。
●私たちは、自分は実際よりも多くのことを知っていると錯覚する。図書館に行って学問の専門書を何冊か読んでみよう。きっと、自分の知識の無さに驚くだろう。
●私たちは、『常識』を語れるほど常識を知らない。自分の考える『常識』に懐疑的になろう。
●親切のすべてが他人を喜ばせるとは限らない。他人の間違いにいちいち責任を感じていてはキリがない。親切心で間違いを指摘するのは、自立以前の自分の子供だけで十分だろう。
●それでも、星の数ほどいる間違った考えの持ち主を、正しい考えに導きたいと思うなら、私はその思想を留意し尊重する。
参考書籍
Think clearly 最新の学術研究から導いた、よりよい人生を送るための思考法
Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法
イソップ寓話の経済倫理学 人間と集団をめぐる思考のヒント (PHP文庫)