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"D‐Unit戦略"世界的投資家の英知に学ぶ、分散型集中投資戦略
投資で成功するために
みなの真似をしていたら、平凡から抜け出すことはできない。
【『天才投資家』チャーリー・マンガー】
多くの人が100点を取れるテストで100点を取っても、それは当たり前のことであり、決して特別なことではありません。
しかし、多くの人が30点しか取れないテストで70点を取ると、不思議な事に、点数は少ないにもかかわらず、特別な存在として周りから一目置かれる存在となることができます。
周りが『苦手とすること』『やる気のないもの』に集中して取り組むことは、人生を生きやすくする勝利の法則と言えるでしょう。
『株式投資』ではどうでしょうか?
株式投資では多くの人が、
『ファンダメンタルズ』よりも『テクニカル』を、
『貸し借り対照表』よりも『損益計算書』を、
『集中』よりも『分散』を、
『価値』ではなく『価格』を、
『論理的』ではなく『直感的』に投資を行っています。
多くの人と同じ領域で戦っても、勝つのは『天性の才能』と『強運』の持ち主だけです。
当記事で紹介するのは、私が7年間の投資人生で導き出した『人とは違う』投資法です。
この方法を採用してから、私は自身の投資判断の向上を実感しています。
ただ…この投資法はかなり複雑であるため、過去数回に渡って、要点を分割して記事にしてきました。
当記事ではそれらを踏まえながら、私の投資法を全て公開します。
皆さんの参考になれば幸いです。
それでは、参りましょう!
D‐Unit戦略
2P-1=X
この公式は数学者のJ・L・ケリーが考案したもので
ケリーの最適化モデルと呼ばれています。
これは、『確率のわかるギャンブルにおいて、自分の資産の何%を賭ければ、リターンを最大化できるか?』を求めるものです。
『P=確率』で『X=賭ける資産%』です。
例えば、70%の確率で勝てるギャンブルでは、資産の40%を賭けることで、理論上リターンを最大化させることができます。
『ケリーの最適化モデル』は伝説の投資家、ウォーレン・バフェットも投資で採用していると言われています。
しかし、このモデルには、一つだけ欠点があります。
リターンを最大化させると同時に、破滅のリスクを負ってしまうのです。
この問題を解決するために私は、フラクタル性の概念を応用することにしました。
葉脈、枝、木…
自然が生み出したものには、同じ形状のものが幾何的に組み合わさってできているものがたくさんあります。
下の図は、六角形を組み合わせて作った『氷の結晶』のフラクタル図形です。
この図形と同じように、『ケリーの最適化モデル』で組成したポートフォリオを二重に組み合わせることで、しっかりと分散されながらも、リターンを最大化できるポートフォリオモデルを作りました。
私はこれを
D‐Unit戦略と名付けました。
『Unit』とは、少数で構成される集団を意味します。
D‐Unit戦略では、
『1Unit=2~5銘柄』のUnitを2~5個組み合わせてポートフォリオを編成します。
イメージとしては、独自に構成した2~5種類のETFで運用していく感じです。
『ケリーの最適化モデル』を投資で活用するには確率を計算しなくてはなりません。
確率について私は、『フェルミ推定』の考え方を採用することにしています。
『金利・業績・安全性』の観点から確率を導き出すのです。
皆さんは、『ほぼ確実』と聞くと、何%の確率を考えるでしょうか?
「この手術は90%の確率で成功する」なら、多くの人は『ほぼ確実』と考えるでしょう。
しかし、『ほぼ確実』が3つ同時に起こる確率となると、確率は大きく低下、70%程度まで落ちてしまうのです。
『債券王』ジェフリー・ガントラックは言います。
私たちの的中率は産業平均よりもかなり高い。70%が的中するが、それでも30%は間違えるんだ。
つまり、D‐Unit戦略で構成されるUnitは『1Unit=40%』が上限となります。
ここからは、『Unit』の選考基準と、個々銘柄の選別方法について述べていきます。
べき乗則
以前私は、過去10年間における『日経225銘柄の高騰率』と『日経平均株価高騰率』を比較したことがあります。
この検証の結果『日経225銘柄中ほとんどの銘柄は平均を下回る』ということがわかったのです。
まるで『国民の貯蓄額平均』のように、少数の優良企業が全体の平均を吊り上げるのです。
このような、一部だけが突出している分布状態のことを数学者は
べき乗則と呼びました。
歴史学者のウィリアム・ジェームズ・デュラントは言います。
実務的な能力は一人一人異なり、ほぼすべての社会でそうした能力の大半が少数の人々に集中している。能力が集中すると、当然、富の集中が生じ、歴史の中でもこれが繰り返し起きる。
紀元前594年のギリシャ、アテナイのソロンによる『道徳改革』。
1068年の中国、王安石による社会主義改革。
1964年のアメリカ、ジョンソン大統領による『貧困戦争』…。
歴史は富の集中と再分配を繰り返してきましたが…
長期的には、経済学者のトマ・ピケティが示した通り、
r>gという不等式に収束していきます。
資本収益率rは経済成長率gを上回る…
世界的な傾向として、富は一部のトップ層に集中していくようにできているのです。
『レバノンの知識人』ナシーム・ニコラス・タレブは著書『ブラック・スワン』で、私たちの生きる民主主義社会の特徴を次のように説明しています。
小物がとても大勢いて、一方、超大物はほんの少しだけいて、両方が合わさって世界の文化の一部を担っている。そして小物の一部がときどきのし上がってきて、勝ち組を叩き落とすのだ。
検索エンジンの市場を巡って、アルタ・ヴィスタがグーグルに退けられたようなことも稀に起こります。
しかし、こういった稀なケースを除いては、基本的に勝ち組は勝ち組であり続けるのです。
『上がったものは下がり、下がったものは上がる』ではなく、『上がるものは上がり続け、下がったものが再度上がることなど滅多にない』というわけです。
この現実を理解し、かつ、自分の能力が平均以下であることを認めるのであるならば、私たちが採用すべき選択肢は次の2つです。
選択肢①…インデックスに投資して平均的なリターンを得る。
選択肢②…超優良企業に集中投資して超お金持ちになる。
D‐Unit戦略で目指すのは、両者の間です。
"足し算"じゃない"引き算"!!
株式投資で重要なのは『足すこと』ではなく『引くこと』です。
市場の平均に投資した場合、衰退している企業や、優良企業ではあるものの、高過ぎて大したリターンが期待できないものにまで同時に投資してしまっていることになります。
銘柄選別はこれらを取り除いていく工程です。
紙は電子媒体に取って代わられ、CDショップはレンタルショップに、更には音楽配信サイトに市場シェアを奪われました。
世界で起きている変化から、暗い未来が想像できる業界は全て取り除きます。
世界の変化を読み取るには、知識人や、自分よりも頭の良い人からの情報を参考にするのが賢明な判断でしょう。
今後長期的に、良好な環境が継続する可能性の高い業界を探し出せたなら、企業の安全性を確認します。
私が確認するのは
①支出は収入の範囲内か?
②借金体質ではないか?
③ファック・ユー・マネーはあるか?
の3点です。
最低限の安全性が確認できたなら、企業価値を算出していきます。
『スーパー経済学者』ジョン・メイナード・ケインズは言いました。
株式の適正な価値は、その株式への投資によって将来得られると予想される利益の現在価値である。現在価値は保有期間中に得られると予想される利益の合計額から資本コストを割り引いて計算される。
企業価値は、
オーナー利益÷割引率で計算され、
オーナー利益は、
純利益+減価償却費-予想される設備投資費
で算出されます。
割引率に関しては、多くの場合は『資本コスト』が使われますが…何%にするかは投資家により様々です。
計算が面倒な方は
EPS×90%÷割引率
なんて省略技を使う人もいるようです。
企業の価値を知ることで、株価が過大評価されているのか?過小評価されているのか?わかります。
まとめると、銘柄選別では
将来衰退していくと予想される業界を排除し、
安全性の低い企業を排除し、
過大評価されている銘柄を排除します。
ここまでやれば、ほとんどの銘柄が投資対象から外れるので、残った投資先に資金を集中投資していきます。
ここからは、投資家なら誰もが悩む『売買タイミング』について述べていきます。
勝者の呪い
重要な『利益確定と損切り条件』について述べる前に、株を購入する際に重要な『安全なマージン』について説明しておきます。
私たちは企業の価値を算出する際、ほぼ確実に価値を過大評価してしまう傾向があります。
私たちが無意識のうちにハマるこの落とし穴は、行動経済学用語で
勝者の呪いと呼ばれています。
いくらかお金の入った瓶がオークションに出品されました。
会場の人達は、出品物にどのくらいの価値があるか予想し参加します。
この場合、オークションの勝者(落札者)は、ほぼ確実に損をするのです。
この実験は、マックス・H・ベイザーマンが、大学生たちに対して実際に行った実験です。
この実験では、落札者は瓶の価値を、平均約20%過大評価したのです。
『行動経済学の代名詞』リチャード・セイラーは言います。
多数の入札者を集めたオークションで、こうして勝者はしばしば敗者となり果てるのだ。この『勝者の呪い』を回避するカギは、『競争相手の数が増えた場合に、より控えめな値を付けること』である。一見、直感に反すると思える、こうした価格付けこそ、まさに理にかなう行動なのである。
『勝者の呪い』は、企業間の買収、投資家の投資行動などにも同じように影響を及ぼします。
この実験を踏まえ、『スイスの知の巨人』ロルフ・ドベリは次のように助言しています。
『勝者の呪いのワナ』の分として、予定入札価格から20%を差し引く。その数字を紙に書き、それを上回る金額になったら入札をあきらめることだ。
私は投資する際、『永遠に保有し続けたいと思う銘柄』に関しては価値の30%を、『そこまでの確信が持てない銘柄』には50%を安全なマージンとして差し引くことにしています。
利確と損切
たとえば、分析している商品の価格は、そう、75セントであるべきだと考えたとしよう。現在それが60セントであれば、私は買いたいと思うが、75セントに上がる前に50セントに落ちるかどうかは予測できない。
【レイ・ダリオ『ヘッジファンドの帝王』】
レイ・ダリオが指摘する通り、安全なマージンをとったとしても、そこからさらに50%下がることも十分考えられます。
そして、『底がどこなのか?』は私たちにはわかりません。
もしそういった状況に直面した場合、私はジェフリー・ガントラックの投資哲学に従うことにしています。
私が自分のお金で何かを買って30%下がっても、今後30年ほどで200%上がると思うなら気にしない。…私はドルコスト平均法は機械的すぎて信じてはいないものの、下がった時に買うようにしている。そして、心配するな。これが重要な部分だ。
「〇%下落したら損切りする」といったルールを決めておくことが重要と指摘される株式投資ですが…これはとても不思議なルールに思えます。
株価が下落することはすなわち、期待リターンが上昇することになります。
より好条件で株を買える絶好のタイミングに、何を血迷えば『損切り』になるのでしょうか?
『損切り』について、私たち投資家が順守すべきルールは一つしかありません。
自分の仮説が『間違っていた』と知った時だけです。
一方、『利益確定』は少し複雑になります。
基本的に、業績の見通しが良好な企業は、企業価値が向上され続けるため、保有し続けることで莫大な利益を狙うのが長期投資の醍醐味です。
しかし、いつしか金融危機が起こり、それまでの状況を一変させてしまう可能性とは常に対峙することになりますが…危機が起こるタイミングをピンポイントで知ることは私たちにはできません。
よって、危機を常に認識し、それに伴いポートフォリオのリバランスを行っていく必要があります。
最後にお話しするのが、もっとも重要な市場サイクルについてです。
市場サイクル
投資にかかわる年月が長くなるにつれて、私は信用サイクルというものの影響力をますます強く感じている。景気がわずかに変動しただけで、利用可能な信用の規模は大幅に変動し、資産価格や、原因となった景気そのものに多大な影響を及ぼす。
【ハワード・マークス『オークツリー・キャピタル』】
株の値動きはトレンドに沿って、好景気と不景気の間を行ったり来たりを繰り返します。
デフレになり景気が冷え込む際には、中銀・政府は景気を浮上させるために、『利下げ』『財政政策』といった対策を講じ、市場に出回るお金の量(マネーサプライ)を増やすことで、インフレに誘導し、景気を再浮上させようと試みます。
逆に、好況時には、『利上げ』『増税』といった対策をとることで、市場からお金を回収し、行き過ぎたインフレを防ごうとします。
景気は、
好況→後退→不況→回復→好況…
というように、好況が不況を引き起こし、不況が好況を引き起こすことで、このサイクルは今日まで続いてきました。
なぜ『好況が不況を』『不況が好況を』引き起こすのでしょうか?
このサイクルがいつから始まったのかはわかりませんが…おそらく一度不況に陥ったのがきっかけでしょう。
不況になると中銀は金利を引き下げ、企業に借入による設備投資拡大を促します。
しかし、状況が一転し、経済が過熱し始めると、中銀は金融引き締めに舵を切ります。
すると、問題が発生します。
お金を低利で借りて設備投資した企業の多くが、まだ利益を得られる状況でないにもかかわらず、金利上昇によって追加の資金を集めることが難しくなってしまうのです。
経済学者のフリードリヒ・ハイエクは、このことを次のように説明しました。
これは孤島に流れ着いた人々の状況に似ている。彼らはあらゆる必需品をつくり出す巨大な機械を制作し始めるが、その途中で、まだ新しい機械が品物を生産できないのに、貯蓄や利用できる無利子の資本をすべて使い果たしてしまったことに気づく。こうなると、彼らは機械製作という新しいプロセスの作業を一時的に中断して、資本がないまま日々の食糧生産に全力を傾けざるを得なくなる。
金利が上昇すれば、銀行は安全な国債を買うことで十分な利益を稼ぐことができるため、わざわざリスクの高い企業にお金を貸す必要性がなくなります。
一方、資金繰りが難しくなった会社の経営は悪化し、これが不良債権問題を深刻化させていきます。
このシステムが存在する限り、『好況~不況のサイクル』は永遠に繰り返されていくのです。
私たちは景気循環の波(好況・後退・不況・回復)で、今自分がどこにいるのかを意識し、ポートフォリオのリバランスを行っていかなければなりません。
しかし、『今どの段階なのか?』をピンポイントで知ることは不可能です。
『ディストレストの専門家』ハワード・マークスは言います。
景気や市場が底を打ったその日に投資を始めることは想定できない。我々の最大の望みは、積極的にファンドに投資している間に相場が底を打つこと、そして、それまでも、そのときも、そのあとも買い続けることである。
私たちにできることは、『金利水準』『投資家の投資意欲』『評論家の予想』といったものの統計から、今自分がどこにいるのかを判断し、ポートフォリオの株式比率を調整していくことだけなのです。
偉大な船長も、泥船に乗れば沈む。
経営成績が良くなるか悪くなるかは、どれだけ効率的に船を漕げるかという点よりも、どのビジネス船に乗り込むかという点が大きく影響する。乗り込んだ船が慢性的に浸水していると気づいたとき、より前向きな対処法をとりたいと思うなら、浸水部を塞いでまわることにエネルギーを費やすのではなく、船を乗り換えることにエネルギーを費やすべきである。
【ウォーレン・バフェット『伝説の投資家』】
ここまで、私の投資哲学のすべてを述べてきました。
『D‐Unit戦略』を実践する上で、重要なのは、頻繁に売買を繰り返さないことです。
どんなに偉大な船長であっても、泥船に乗っては目的地に辿りつくことはできませんが、自動運転付きの頑丈な船ならば、並みの船長でも安全に航行させることができるのです。
私たち投資家は船長です。
私たちは売買トレードを繰り返すことで利益を稼ぐ凄腕投資家になる必要などありません。
私が目指すのは、自分が優良企業だと確信した企業の株を買い、自分の目を信じて株を保有し続けることだけです。
『伝説の投資家』ウォーレン・バフェットは言います。
一生のうちに必要となるのは、ほんの数度の正しい行為だ。山ほどの間違った行為を連発しないかぎりはね。
『D‐Unit戦略』によって、『穏やかな海』を航行する『高性能な船』を見つけることができたなら、私たちが向かう未来は、きっと明るいものになるでしょう。
さぁ!
超安全な豪華客船に乗り、優雅な船旅を満喫しようではありませんか!
以上です。
投資家の皆様の健闘を祈ります!
(`・ω・´)ゞ
※投資は完全自己責任でやりましょう!
まとめ
●D‐Unit戦略は『ケリーの最適化モデル』を二重に組み合わせることで、しっかりと分散されつつも、高リターンが期待できるポートフォリオモデルである。
●歴史を通して、世界の富は一部の層に集中的に集まる傾向がある。企業にもこれと同じことが生じる。
●私たちは、企業の価値を評価する際、ほぼ確実にその企業を過大評価してしまう。『勝者の呪い』を避けるため、自分の算出した価値から最低20%を差し引こう。
●好況が不況を、不況が好況を引き起こすことで、景気循環が発生する。今自分が景気循環のどこにいるか意識しよう。
●豊かな人生を手に入れるために必要なのは、ほんの数度の正しい行いだけである。お気に入りの会社に財産を投じてみてはどうだろうか?いいことが続き過ぎるのも、きっと悪いことではないだろう。
参考
https://www.financialpointer.com/jp/
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