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株式投資で予測の精度を高める『フェルミ推定』という思考法
属性代用
『天才投資家』チャーリー・マンガーは言いました。
確率でモノを考えるという初歩的ではあるが直感にやや反する技術を身に着けないと、人生という尻蹴とばし競争に片足で参加するはめになる。
「日経平均株価が3年以内に40000円に到達する確率はどれくらいあるでしょうか?」
この質問に対して、ほとんどの強気派投資家は次のような答え方をします。
「確率?高い確率でそうなると思うよ!75%以上かな。だって、歴史的低金利で、お金がばら撒かれていて、チャートの形が・・・」
『日経平均株価が3年以内に40000円に到達する確率』
このとても難しい質問に対して、なぜ私たちは瞬時に答えを導き出すことができるのでしょうか?
それは、とても簡単なことです。
私たちは無意識の内に、質問の内容を自分が答えやすいようにすり替えているのです。
心理学において、私たちの脳が持つこのようなメカニズムは
属性代用と呼ばれています。
ここでは『日経平均株価が3年以内に40000円まで上昇する確率』という命題を『自分は、日経平均株価が3年以内に40000円まで上昇すると思うかどうか?』という命題にすり替えたのです。
私たちの認識は2つに分けられます。
システムⅠ【直感】とシステムⅡ【推論】です。
上記の質問は時間をかけてじっくり考える必要のある内容です。
しかし、私たちは面倒で時間のかかるシステムⅡは使わず、手っ取り早く答えが出せるシステムⅠにさっさとバイパスして早く答えを導き出そうとするのです。
『スイスの知の巨人』ロルフ・ドベリは著書【Think Smart】の中で次のように語っています。
進化の過程において、何ごとに対してもじっくり思案を重ねた人は、肉食動物の腹のなかに消えてしまった。私たちは即時に決断を下した人たちの子孫であり、回答にいたるまでの時間を短縮できる思考法を使っているのだ。
こうやって導き出された予測の精度はどれほどのものなのでしょうか?
おそらく『コイントス』いや…『チンパンジーのダーツ投げ』と等しい確率でしか的中しないことでしょう。
ということで、今回は世界的投資家が実践している『予測の精度を大幅に高める思考法』について述べていきます。
正しい予測技術を身に着け、巨万の富をつかみ取りましょう!
フェルミ推定
質問です。
日本に女性は何人いるでしょうか?
この質問に対して、
「約6000万人!」
とググらずに答えを出せたあなたは、高度な統計学的思考法を無意識的に応用していることになるでしょう!
きっとあなたは、日本の人口(約1億2000万人)を2で割って答えを導き出したはずです。
(実際は2020年時点で約6470万人)
このように、『わからないこと』を分解し、いくつかの『わかること』から概ね正しい答えを導き出す思考法は、これを考案した物理学者エンリコ・フェルミの名前に因んで
フェルミ推定と呼ばれています。
『フェルミ推定』を使えば、例えば…『自分のパートナーになり得る女性の人数』なんてものも、命題を次のように分解していけば求めることができるのです。
・日本人女性の人口【6000万人】
・年齢は25~35歳【10%】
・独身比率【40%】
・できれば県内がいい【2%】
・自分が魅力的に感じる割合【10%】
・交際をOKしてくれる人【1%】
以上の結果から、48人が候補者となり、恐ろしく少ないですが…探せないわけではないということがわかりました。
『パートナー探し』を諦める必要はないみたいですね☆
『フェルミ推定』を株式投資に応用する
フェルミ推定を使って、『株式投資で利益を得られる確率』を求めてみます。
私は以前『ブシロード株』を約1800円で購入しました。
この投資で利益を得られる確率を算出してみます。
私は『株価が上昇する確率は?』という命題を分解し、株価上昇の必要条件について次の3つのことが同時に起こる可能性を考えました。
①現状の金融政策が今後3年程度継続する可能性
↳景況感はあまり変わっていない…95%の確率で継続するだろう。
②株価が企業価値まで回復する可能性
↳算出した企業価値が正しければ、多くの場合、株価は企業価値に収斂する…90%の確率で回復するだろう。
③企業の成長が現状以上をキープする可能性
↳この会社の売り上げは順調に伸びている。アニメは今後も有望な市場なので、90%大丈夫だろう。
これら3つの条件を同時に満たす確率は77%です。
確率が出たら期待値を求めます。
『伝説的投資家』ウォーレン・バフェットは言います。
予想される利益額に利益を得る可能性を掛けたものから、考えられる損失額に損失の可能性を掛けたものを差し引いてみよう。私たちがやろうとしていることは、そういうことなのだ。完璧ではないが、それで十分である。
この会社の企業価値を私は一株3600円と算出しました。
使ったのは、世界一簡単な公式
『利益÷割引率』です。
私は、「何%の割引率を適用するのが適正か?」予め数十社で算出してみて、3%を適用するのが適切だと判断しました。
・上昇期待価格は3600円で77%の確率でそこまで上昇する。
・損失最大値は倒産したときで1800円の損失。
↳バランスシートは良好なので、倒産することはありそうにない…大きく見積もって10%程度だろう。
(1800円×77%)-(1800円×10%)
=1206円
つまり、この会社に投資することによって、
一株につき1206円の期待利益が得られることになります。
私にはやらない理由が見当たりませんでした。
その後、この企業の株価は3600円を少し超えたところまで上昇し、下落に転じました。
私は長期で保有するつもりだったので、そのまま保有を継続していましたが…
見通しが変わったので、売却。
約60%の利益を確定しました。
この考え方が正しかったのかどうかはわかりません。
でも、結果として、株価は企業価値まで回復し、私は利益を得ることができました。
もし失敗したとしても、『自分が何を間違えたのか?』をチェックし、前提条件を修正すればいいだけのことです。
チャートと睨めっこするよりかは、マシな方法ではないでしょうか?
ファンダメンタルズは過去と照らし合わせて考える
コロナ危機から相場が急反発している最中、世界的投資家たちはどのようにして、『これから起こり得る事象』を予測していたのでしょうか?
私が人生で最初にそれが起こったのは1971年だ。私はニューヨーク証取で場立ちをしていたが、リチャード・ニクソンがカメラの前でドルの金への兌換を停止し、ドルの価値を低下させた。株式市場は数十年で最大となる4%も上昇した。私はルーズベルトが1933年3月5日に全く同じことをやったのを知った。
【『ヘッジファンドの帝王』レイ・ダリオ】
ウォーレン・バフェット、ジム・ロジャーズ、ジェフリー・ガントラック、デニス・ガートマン…
彼らは皆、過去の出来事から類似したことはないか探し、議論していたのです。
歴史は、まったく同じことを繰り返したりはしませんが、多くの場合、過去とよく似たことが繰り返されているのです。
1979年、ソ連はアフガニスタンに侵攻しました。
アフガニスタンはイスラム教徒が多く、そのため、他国からイスラム教徒が応援に駆け付け、アメリカも参戦し戦況は泥沼化してしまいます。
この戦争でソ連軍は壊滅的な被害を受け撤退、これがソ連崩壊のきっかけとなりました。
一方、勝者であるアフガニスタンは、タリバンという武装勢力に攻撃され大混乱に陥ってしまいます。
アメリカはこの戦争で『9.11』の首謀者であるオサマ・ビンラディンを事実上育ててしまったことになり、以後長い間、テロに苦しめられることになったのです。
この教訓から人々はどれだけのことを学んだのでしょうか?
2015年、ロシアとアメリカはシリアで、これと同じことをやり始めました。
多くの人は将来の株価予測をイメージに基づいて行います。
しかし、一握りの賢い投資家は『過去どうだったか?』という観点から、利益を得られる確率について考えるのです。
理論物理学者アルベルト・アインシュタインはこんな言葉を遺しています。
同じことを繰り返しているだけなのに、異なる結果を期待する。それは狂気である。
『ニフティ・フィフティ』『ITバブル』『ビット・コイン』
人間の活動において、金融の世界ほど歴史がないがしろにされる分野はほとんどない。過去の経験は、たとえ記憶に残っているとしても、今日の驚異的な発展を評価するだけの洞察力を持たない者が、考えなしに駆け込む逃げ場であるとして、一笑に付されてしまう。
【ジョン・ケネス・ガルブレイス(経済学者)】
1960年代後半、アメリカの急成長企業(IBMやコカ・コーラ等)50社は『ニフティ・フィフティ』と呼ばれ、投資家の注目を集めていました。
「これら50社は超優良企業であり、どれだけ株価が高くても、強い成長力がすぐに株価に追いつく。つまり、どの価格で、どのタイミングで買っても儲かる!」
と考えられており、その結果、ニフティ・フィフティ銘柄の株価は1968年にPERで80~90倍に達するに至りました。
しかし、株式投資のブームは永遠には続きませんでした。
1973年、これら企業のPERは8~9倍の水準まで売り込まれたのです。
結果、これら『アメリカの超優良企業』に投資した人々は資産の大半を失ってしまったのでした。
これとよく似たことが1990年代後半に起きました。
ITバブルです。
このバブルは『ニフティ・フィフティ』の時とは少し違っていました。
ニフティ・フィフティ銘柄はPERを算出することができましたが、ITバブルで注目された企業の多くには、そもそもPERを算出するために必要な利益自体、存在していなかったのです。
「インターネットは世界を変える!」
「電子商取引関連株に高過ぎる価格などない!」
こういった考えが投資家を熱狂させ、ずっと赤字を垂れ流している企業の株に不自然に高い価格が与えられたのです。
確かに、インターネットは世界を変えました。
しかし、ITバブルで注目を集めた企業の多くは倒産し、投資家は元本を丸々失ったのでした。
『暗号資産』はどうでしょうか?
確かに、暗号資産の技術は世界を変えるかもしれませんが…
1ビットコイン700万円は高過ぎるように思えます。
『ディストレストの専門家』ハワード・マークスは言います。
強気相場が続くには、強欲、楽観主義、熱狂、信頼感、軽信、大胆さ、リスク許容、積極性を特徴とする環境が必要だ。だが、これらの特徴が市場を支配し続けることはない。いずれは恐怖、悲観主義、慎重さ、不透明感、懐疑主義、警戒感、リスク回避、躊躇に取って代わられるのである。
ビットコインが将来のドルに代わる通貨になればいいですね。
『インフォメーション』じゃない『インテリジェンス』!!
アメリカを代表する諜報機関『CIA』は、
Central Intelligence Agencyの略称です。
『情報』を意味する単語に、なぜ
『Information』ではなく『Intelligence』が使われたのでしょうか?
情報には2種類あります。
①新聞や雑誌、テレビやネットのニュースから情報をただ受け取る…
これがインフォメーションです。
②そうやって得た情報を、過去の同じような事例と照らし合わせて未来を読み解く…
これがインテリジェンスです。
世界中のスパイたちの情報源の98%は、その国の新聞や雑誌、テレビからだと言われています。
つまり、彼ら(彼女ら)は、新聞に毎日隅から隅まで目を通し、これから起こり得ることを推測し、それを上に報告しているのです。
私たち投資家がやらなければいけないことが、この『インテリジェンス』です。
世界中のスパイたちと同じように、よく読み、そして考えないといけません!
確かに投資は難しいです。
投資で勝つためには、多くの努力、多くの研究、多くの知識を必要とします。
でも、今回紹介した『フェルミ推定』で使ったのは、
『足す、引く、かける、割る』と『百分率、確率の計算』だけです。
世界的投資家によると、投資にはこれ以上の数学的知見は必要ないそうです。
これは難しい投資の唯一の救いではないでしょうか!?
最後に、ウォーレン・バフェットの名言の中で、私が特にお気に入りの言葉を紹介して終わります。
投資家としての成功に微積分や代数が必要なら、わたしは新聞配達の仕事に戻るしかないだろう。
以上です。
投資家の皆様の健闘を祈ります!
(`・ω・´)ゞ
※投資は完全自己責任でやりましょう!
まとめ
●『確率でものを考える』という初歩的だが直感にやや反する技術を身に着けなければ、人生という尻蹴とばし競争に片足で参加するはめになる。
●命題を分解すれば、難しい問題に対しても、概ね正しい答えを導き出すことができる。
●株式投資で得られる期待利益を算出するためには、『金利』『業績』『安全性』のそれぞれに対する確率を考える必要がある。
●同じことが繰り返されているのに、異なる結果を望むのは狂気である。『歴史は韻を踏む』ファンダメンタルズは、過去をトレースして考えよう。
●投資家としての成功に、難しい計算は必要ない。算数の計算ができたなら、会計と歴史について学ぼう。
参考
Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法
市場サイクルを極める 勝率を高める王道の投資哲学 (日本経済新聞出版)
お金の流れでわかる世界の歴史 富、経済、権力……はこう「動いた」