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『否定の道』を行き、株式投資を成功させよう!
否定の道
『万学の祖』アリストテレスは言いました。
賢人が目指すべきは、幸福を手に入れることではなく、不幸を避けることだ。
『人の幸せ』とは何なのでしょうか?
実際、2500年前から、哲学者・神学者・社会学者・経済学者・心理学者・脳科学者といった多くの人たちが、この疑問の答えを突き止めようとしてきました。
残念ながら…その答えは未だにわからないままとなっています。
しかし、『何が人を幸せにするのか?』はわからなくても、『幸せを大きく損なうものは何か?』は明らかにわかります。
幸福を手に入れる方法がわからないのであれば、不幸を避ければ良いのです。
ギリシャ人やローマ人や中世の思想家は、この考えを
『否定の道』と名づけました。
株式投資ではどうでしょうか?
私たち投資家は、どうすれば成功を手にすることができるのでしょうか?
もちろん、そんなことは誰にもわかりません。
でも大丈夫です。
私たちは、成功を阻害する間違った考えを排除しさえすればいいのです。
間違いを避けることに、微積分や代数、ギリシア文字の入ったような方程式を解けるようになる必要はありません。
天才投資家と呼ばれるチャーリー・マンガーはこんなことを言っています。
私たちのような人間が、これほど長期にわたって成功をおさめているのは驚くべきことだ。私たちはただ賢くあろうとする代わりに、愚か者になるのを避けているだけなのだが。
以前私は『株式投資で排除すべきもの』を3つ紹介しました。
本記事では以前紹介したものに加え更に、私たち投資家が避けるべきものを3つ紹介していきます。
否定の道を行き、成功を目指しましょう!
『フリーキャッシュフロー』がマイナスの銘柄は避ける。
上の表は、ある企業の経営成績ですが、これを見て皆さんはどう思ったでしょうか?
売上も純利益も右肩上がりに伸びている、超優良企業に思えたのではないでしょうか?
しかし、この会社は翌年、536億円もの大幅赤字に転落し、そのまま倒産してしまいます。
この会社の名前は『江守グループホールディングス』です。
このように、私たち素人投資家は、会社の発表する経営成績を簡単に信じてしまいます。
違った視点から厳しい目で、いろいろとチェックするのは、手間もかかるし面倒だからです。
しかし、この会社の倒産は、大した手間もかからない簡単なチェックをしてさえいれば見抜くことができたのです。
それが
キャッシュ・フロー計算書です。
おっと…難しそうな言葉が出てきましたね…。
ですがこれを理解せずに投資に挑むのは、はっきり言って無謀でしょう。
伝説的投資家のウォーレン・バフェットも
会計はビジネスの言語だ。
と、会計の重要性を指摘しています。
そんなに難しいものではないので頑張りましょう!
『キャッシュ・フロー計算書』は簡単にいうと、企業の手持ちのキャッシュがいくら増えたか(減ったか)を見るものです。
キャッシュ・フロー計算書は4つのブロックで構成されています。
江守グループホールディングスのキャッシュ・フローを見てみましょう。
なんと純利益が黒字であるにも関わらず、会社の中のお金はどんどん減っていっている状態だったのです!
企業の利益は全てがすぐに現金化されるわけではありません。
多くの場合は一部が、『受け取り手形』や『売掛金』といった債権の形で支払われています。
企業は、これら債権が現金化されるまで、会社の現金を絶やさないように、借金をしてでも耐え忍ばなければなりません。
しかし、もし取引先に債務の返済能力が無いことが判明するとどうなるのでしょうか?
その場合は回収不可能な不良債権に変わってしまいます。
それまで順調だった会社がある日突然破綻する…
こんなブラック・スワンに遭遇しないためにも、キャッシュ・フローは確認しておかないといけませんね。
特に、『フリーキャッシュ・フロー』のマイナスは、3年連続で続くと、成長期の企業であっても財務的に苦しくなってくるそうです。
『営業キャッシュ・フロー』『フリーキャッシュ・フロー』が共にマイナスの企業への投資は避けましょう!
「そんな危ない会社なんて、滅多に出くわさないだろう。」
いや~結構ありますよ。危ない会社…
企業買収を繰り返す会社は避けよう!
株式投資をやっていれば、『のれん償却費』という言葉をよく目にします。
のれんとは、
その企業のブランド力や、長年の関係による超過収益力などの目に見えない資産に価値を付けたもののことをいいます。
例えば、Aという会社が、Bという会社を買収することを決めました。
会社Bの買収価格は300億円でした。
しかし、会社Bが保有する資産の価値は100億円しかありませんでした。
この場合、会社Aは、200億円を余分に支払ったことになります。
ここでいう200億円が『のれん代』ということになります。
日本の会計基準では、企業のブランド力といった価値は、時の経過とともに減価していくものと考えられており、20年以内でこの『のれん』を償却していかなければなりません。
これを『のれんの償却』と呼びます。
こういったルールがあることで、日本の企業は買収について慎重に考えるようになります。
冒険投資として知られるジム・ロジャーズも、企業買収には消極的な意見を持っているようです。
自分たちが知らないことをしようとすると、多くの場合、よりたくさんの問題が起きる。事業を多様化させている会社は、より多くのトラブルに巻き込まれやすい。それは企業の経営を間違いなく悪化させるはずだ。
リクシル・日本郵政・東芝・ライザップ…
多くの企業が『企業買収(M&A)』で失敗してきました。
私たち投資家にとって好ましいのは、買収なんかに頼らなくても、十分に競争優位性を維持していける企業なのです。
しかし、最近はM&Aに積極的な企業が目立つようになりました。
そういった企業が必ずといっていいほど、採用しているのが
IFRS(アイファース)と呼ばれる会計基準です。
IFRSでは、企業のブランド力には永続性があるものと考えられているため、『のれん』の償却は基本的にしなくてもよく、「もし減価したらそのときに減損すればいい」と考えられています。
つまり、買収した企業の業績が良い間は、『のれんの償却』は発生しませんが、業績が悪化した際には、償却費用が発生してしまうことになります。
もちろんその場合は、企業の収益力も大きく低下してしまっている可能性が高く、そこに『のれん償却費』が重なるので、赤字転落の可能性も十分にあり得るのです!
なぜ買収は失敗しやすいのか?
私たち投資家があまり良いイメージを持たない『企業買収』。
そもそも、なぜ買収は失敗し易いのでしょうか?
私の知る限り、理由は二つあります。
一つは、領域依存性です。
私たちが持つ、『ものごとに対する洞察力』は、分野を超えて発揮されるものではないというものです。
レバノンの知識人ナシーム・タレブは、自身の著書で次のように書いています。
チェスのプレーヤーはチェスの問題を解くのが得意だ。だが、彼らの能力が発揮されるのはチェスに関してだけだ。私たちは、能力というのはある領域から別の領域へも移行可能なものだと考えがちだが、けっしてそうではないのだ。
つまり、
『優秀な経営者=優秀な投資家』でなければ、
『優秀な経営者=優秀な会計士』でもないわけです。
普段正しい決断ができる経営者であっても、企業買収に関しては、間違った判断を下してしまうこともあるのです。
私は当ブログの挿絵をPowerPointで描いていますが、私の場合、これを紙やペンタブで描こうとしても上手く描けませんでした。
おそらくですが…
エクセルアートの達人は、エクセル以外では絵を描くことはできません。
リアルな自画像を描く人は、デフォルメキャラを描くのが苦手というのはよくある話です。
伝説的投資家のウォーレン・バフェットも、良い経営者を見抜く能力があっても、良いビジネスを展開する能力が自分には無いことを認めています。
このように、私たちの能力は、他の分野へは移行できないことが多いのです。
『自分の得意な領域から離れない』これが人生にとって、とても大切なことなんですね。
二つ目が、日本の文化による影響です。
日本には、『お互いを信頼し合う文化』があるので、日本企業の経営者も、相手を信用し過ぎてしまう傾向にあるそうです。
これにより、「買収先の隠れた負債を見抜けなかった」といったケースもあるので、日本人はそもそも、投資や企業買収には向いていないのかもしれませんね。
以上の理由からIERS採用銘柄で『のれん残高トップ10』に入るような企業は、私たち素人は避けた方が無難でしょう。
また、IFRSには特別なルールもいくつかあり、会計の知識が無いと予想外のトラブルに出くわす可能性もあります。
会計の知識が十分に無い場合は、IFRS採用銘柄(ググれば出てきます)は避けた方がいいでしょう。
私はそうしています。
最も避けるべき銘柄
最後に、私たちが絶対に避けなければいけない銘柄があります。
それは…
将来、売ることを前提に購入しようとしている銘柄です。
ウォーレン・バフェットは言いました。
喜んで10年間株を持ち続ける気持ちがないのなら、たった10分間であっても、株を持とうなどと考えるべきですらない。
過去のチャートを見れば、株価が10倍を超える高騰をしている銘柄はたくさん存在しています。
売却を前提に投資をした場合、私たちはそこまでその企業の株式を保有し続けることできるでしょうか?
おそらく、20%・50%・100%の上昇で売却していることでしょう。
下落した場合はどうでしょうか?
売却を前提としている企業の株を、暴落時に買い増しすることはできるでしょうか?
経験上…パニックになって損切りするだけでしょう。
私はウォーレン・バフェットの、この言葉を忠実に守って投資を行っています。
投資している会社の将来性に問題があることがわかれば、
損失がどれだけ出ていようと、
チャートの形がどれだけいい形をしていようと、
10分以内に躊躇なく売却するようにしています。
名投資家バーナード・バルークは、どうやって大金持ちになれたのか問われたとき、茶目っ気たっぷりの笑顔で次のように答えています。
いつも早すぎるタイミングで株を売ってきたからだよ。
私の知り合いは、日々株の売買を繰り返し、勝ったり負けたりを繰り返していました。
しかし、彼のポートフォリオには1社だけ、株価が購入時の倍以上に上昇している銘柄がありました。
「その株は売らないの?」
私がこう尋ねると、彼はこう答えました。
「この株だけは絶対に売らない!」
『何に投資するのが正解なのか?』
実は私たちは、既にその答えをよく知っているのではないでしょうか?
結論
以前『株式投資は"否定の理論"で考えよう』で紹介したものに加え、
①営業キャッシュ・フロー、フリーキャッシュ・フローが共にマイナスの銘柄。
②野放図なM&Aを繰り返す会社。
③将来、売却することを前提に購入しようとしている銘柄。
を排除しましょう!
「そんなに排除していたら、投資できる銘柄なんてほとんど無いじゃないか!」
その通りです。
実は、私たちが投資していい銘柄など、ほとんど無いに等しいのです。
私は、『いい投資先を見つけるために』投資の勉強をしているのではありません。
『投資すべきでない企業を避けるために』勉強をしています。
スイスの知の巨人ロルフ・ドベリは自身の著書のなかでこう書いています。
よい人生は、究極の幸せを求めた結果として得られるものではない。馬鹿げたことや愚かな行為を避け、時代の風潮に流されなければ、人生はおのずとうまくいく。『何を手に入れたか』で人生の豊かさが決まるわけではない。『何を避けるか』が大事なのだ。
『避けるべきもの』を知っていれば、私たちの投資も、そして人生もきっと上手くいくことでしょう。
ユーモアのセンスあふれるチャーリー・マンガーは、こうも言っています。
一番知りたいのは私が死ぬ場所だ。そうすれば、その場所を常に避けていられるからね。
以上です。
投資家の皆様の健闘を祈ります!
(`・ω・´)ゞ
※投資は完全自己責任でお願いします!
まとめ
●多くの情報をもとに評価しよう。チェック項目が増えれば増えるほど、私たちの投資の精度は高くなる。
●『良い経営者=良い投資家』である可能性は極めて低い。企業買収を繰り返す会社への投資は避けよう。
●売却を前提にした投資はやめよう。そんな株は10分たりとも保有してはいけない。
●『何に財産を投じるべきなのか?』この答えを私たちは、実はもう知っている。とっておきの会社に投資してみよう!
●多くのチェック項目をクリアした銘柄は言葉の通り『お宝銘柄』となるだろう。簡単に手放してしまうのは勿体無い。長く長く保有しよう!
参考書籍
Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法
史上最強の投資家バフェットの教訓―逆風の時でもお金を増やす125の知恵