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人間に『アメとムチ』は必要なのか?
随伴性の認知
皆さんは自分の部下や後輩、または子どもにどのような教育を施しているでしょうか?
こう聞かれると多くの人は『アメとムチの法則』を思い浮かべることでしょう。
望ましいことをすればアメ(報酬)を与え、望ましくないことをした場合にはムチ(罰)を与える…
『アメとムチによって、相手の意欲を左右すること』は
条件付けと呼ばれ、行動心理学では長い間これが基本と考えられてきました。
例えば、下の図のようなT字型の迷路に入ったネズミを『右方向にだけ進むネズミ』に育てたい場合、どんな仕掛けをしたらいいでしょうか?
この場合もっとも効果的な仕掛けは、『左方向には電気ショック(ムチ)を、そして右方向にはクッキー(アメ)を用意する』といったところでしょう。
実際にこの実験は何度も行われ、毎回成功します。
『良いことをすれば良いことが、悪いことをすれば悪いことが…』
そう信じ込ませることを心理学では
随伴性の認知と呼ばれ、古くからの教育の王道となっています。
私も、家庭や学校・職場において、このような教育を受けてきました。
そんなに単純なものではない!
しかし、後の実験で、アメとムチの法則には問題があることがわかりました。
電気ショックを少し強めに設定すると、突然のムチに怯え、なんとその場で完全にうずくまり、右にも左にも進まない無気力なネズミになってしまったのです。
更には、そのネズミを後に解剖すると、この実験で使われた全てのネズミがストレス性胃潰瘍になっていたのです。
この事実が判明して以降、ムチはときとして逆効果になることが指摘され始めました。
人間でも同じです。
キツイお仕置きが待っているとわかっていることに、リスクを冒してまでアメを取りに行こうとは思わないのです。
それなのに、多くの人はムチの効果に期待します。
残念ながら、ムチは意外と役立たないのです。
そして、火中の栗を拾おうとする人など、ほとんどいないのです。
アンダーマイニング
では、教育に必要なのは『アメ』なのでしょうか?
残念ながらこれもそうではありません。
心理学者のエドワード・L・デシらは、次のような実験を行いました。
いろいろな形をした7種類のブロックをつなぎ合わせて特定の形を作る『ソマ』というパズルがあるのですが、
デシは、大学生を2つのグループに分け、それぞれにこのパズルを渡し、解くように言いました。
一つのグループは、パズルを一回解く毎に報酬として1ドル貰えるというルールが有り、もう一方のグループは、パズルを解いてもなにも貰えません。
両方のグループには同じ長さの休憩時間が与えられ、その休憩時間中に何をするのかを観察したのです。
結果はどうなったでしょうか?
報酬を与えられたグループは、休憩時間になると寝そべったり、雑誌を読んだりして時間を潰していました。
一方、報酬を与えられなかったグループは、休憩時間中にも関わらず、熱心にパズルを解き続けていたのです。
金銭的な理由で行っているわけではないことに金銭を介入させると、進んで物事を行おうとする意欲を減退させてしまいます。
心理学ではこのことを、
アンダーマイニングと呼びます。
こんな話があります。
あるところに、小さな会社がありました。
小さな会社なので、当然ながら給料は『平均以下』でした。
それでも、そこで働く従業員は意欲的に仕事をしていました。
経営者は、頑張っている社員に対して『一定の成果を出す毎にボーナスとして、翌年の給料を4%割り増しする』というルールを取り入れました。
すると社員たちは、ボーナスに直結しないものに対してまったく気にかけなくなったのです。
独創性も、会社の評判も、新人社員にノウハウを教えることも…
それら全てがどうでもよくなったのです。
ボーナスという報酬によって、社員たちの仕事への意欲がアンダーマイニングされてしまったのです。
金銭というアメはときとして逆効果になることもあります。
特に、子どもをお金で釣ろうとするのはやめましょう!
これに対し、スイスの知の巨人、ロルフ・ドベリは『お小遣い制』を推奨しています。
重要なのはアメでもムチでもない!
では、私たちの成長に大切なものはいったい何なのでしょうか?
それは意義です。
その行動に使命感や、報酬とは別の目的があれば、人は意欲的に行動します。
上記のお話しの中で、社員たちが『平均以下の給料』でも意欲的に頑張っていたのは、そこに意義を見出していたからなのです。
部下や後輩が仕事に対して「どうも意欲が湧いてないな」と感じた場合は、会社が提供している商品やサービスの素晴らしさを理解してもらえるように、頑張ってアピールしてみましょう!
どんな仕事であれ、現在生き残れているということは、それ相応の理由(価値)があるのですから。
私は、自分の勤める会社の商品を見かけると、「これが無いと困る人がたくさんいるんだろうなぁ」と少し考えるようにしています。
少しかもしれませんが…モチベーションはきっと上がりますよ☆
株式投資では過程を楽しもう!
株式市場には、多くの人がお金を稼ごうと参戦しています。
しかし、金銭目的の投資で、巨万の富を築いた人はどれほどいるのでしょうか?
残念ながら圧倒的大多数の参加者が、多くの損失を出した後、撤退を余儀なくされています。(私も昔そうでした…)
株式投資で大成功を果たした投資家の一人である、ウォーレン・バフェットにも『お金を稼ぐこと』以外の目的があったようです。
わたしは株式市場で金を儲けようとしたことはない。株を買う時は翌日に市場が閉鎖されて5年後まで再開されない、という事態も想定している。
金銭目的で投資をするのであれば、私たちが億を目指す理由とは、いったいなんなのでしょうか?
『1億円で欲しいもの』そんなものは私にはありません。
『自分が心の底から素晴らしいと思える極少数の優良企業の株を、可能な限り大量に保有したい』私が投資をする理由はただそれだけです。
しかし、私の投資できるお金には限界があります。
だから必然的に『暴落時に大量に買う』ことに繋がっています。
つまり、私たちが成功するのに大切なのは、結果(お金という報酬)よりも過程の方なのです。
過程と結果のバランスをうまくとれと教わってきたが、私の場合、結果よりも過程の方がはるかに楽しい。
ウォーレン・バフェットは、『保有しているだけで100%幸せと思える』そんな株を買うよう、私たちにアドバイスしています。
自分の仕事に情熱を持っている人々は、やがてその道の第一人者になっていく。なぜなら、彼らは金という結果よりも過程を愛するからだ。おもしろいのは、えてして情熱のあとから金がついてくるという点だ。
これはメアリー・バフェットの言葉です。
投資も仕事も、欲を出さずに、過程を楽しんでみてはいかがでしょうか?
それでも必要な最低限度の『アメとムチ』
天才投資家として知られるチャーリー・マンガーは『私たちに必要な最低限度のアメとムチ』について語っています。
繁栄しようとするならば、働かねばならない。飴を与えるだけではなく、鞭で叩くことも必要だ。鞭を手放せば、社会がうまく機能しなくなり、金持ちになる道は閉ざされてしまうだろう。それは愚かなことである。
私たちは働いてお金(アメ)を稼がなければなりません。
働くことをやめてしまったなら、私たちは困窮し、生きていくことができなくなります。
これがマンガーの言う『ムチ』です。
いつも仕事をサボり、身勝手に振舞っている人は、その内周りからも見放され、会社に居られなくなるでしょう。
パワハラで部下を退職に追い込む上司も、これからの時代は見逃してはもらえず、同じくムチで叩かれることでしょう。
私たちの祖父母の代が必死に働いたのは、決してお金をたくさん稼ぎたかったからではありません。
『失業』という恐怖心があったからなのです。
最近の日本はどうでしょうか?
『売り手市場』『充実した社会保障』『親の経済力』…
『失業の恐怖心』は、かなり薄れているように感じてしまいます…。
平均以下の給料でも、格好悪い仕事でもいいじゃないですか!
なんでもいいので、とりあえず働きましょう!
最後に、心理学者の植木理恵氏は、最も効果的な教育法について提案しています。
それはアメとムシです。
望ましいことをした場合はたくさん褒める。
望ましくないことをした場合はしばらく無視する。
実は『相手にされない』ことが、私達には一番キツイお仕置きなのです。
困ったときはぜひ試して頂けたらな、と思います。
以上です。
社畜サラリーマンに幸あれ☆彡
まとめ
●教育において、ムチは意外と役に立たない。注意する場合は『褒める→注意→褒める』のサンドイッチを使う等、相手を萎縮させないように配慮しよう。
●『金銭』というアメは私たちの意欲を減退させてしまうこともある。親切にされた際は、お金は渡さないようにしよう。そして、その人が困っているときに、親切で返そう!
●仕事に意義を見出そう。今存在している仕事には存在するだけの価値がある。
●お気に入りの会社に投資してみよう!「いいことが続きすぎてうんざりするのって、たぶん素敵なんじゃないかな」と女優のメイ・ウエストも言っている。
●私たちは働き、報酬を得なければならない。『給料と失業』これが人間にとって必要な最低限度の『アメとムチ』なのである。
参考書籍
Think Smart 間違った思い込みを避けて、賢く生き抜くための思考法
史上最強の投資家バフェットの教訓―逆風の時でもお金を増やす125の知恵
マンガーの投資術 バークシャー・ハザウェイ副会長チャーリー・マンガーの珠玉の言葉 富の追求、ビジネス、処世について ( )